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書評 - 整理学

加藤秀俊 『整理学 - 忙しさからの開放』 (中公新書、1963) を読んだ。

初版が 1963 年であるにもかかわらず古さを感じさせない。現代の情報社会の混沌と、情報の海を泳いでいくための基本的な考え方が、明快に整理されて考察されている。

この本の冒頭には、おしゃべりの止まらない美しい女教師の例があげてある。

「みなさん、おひさしぶりね! わたくし、もうお話したいことがいっぱいで、がまんできませんの。皆さん、ご機嫌いかが? お母さん、お変わりありません? わたくし、お父さんのこと、ずいぶん心配してましたの。そうそう、先週の日曜日、コロムバスへ行ったのよ。そしたら、バスに乗っている人を見ているうちにお父さんのことを思い出して、あれからずっとお父さんのことばかり考えていたの。それはそうと、あなた、小鳥を売っているお店へいらしたこと、ある? わたくしがぜひお話しようとおもっていたのはね、.... 」

という調子で、この婦人は、列車から降り立ってから夜更けまでしゃべり続け、笑い続けた。

K. メニンジャーによるとこの婦人は「一般的過活動状態」といわれる病気である。しかし、現代の情報社会におけるわれわれの生活も、一種の過活動状態なのだ。朝から晩まで、脈絡のない大量の情報に接しそれに対応していかなければならない。

現代人がこのように大量の関連性のない情報にさらされるようになったのは、文字や紙が発明され情報が記録という形で利用できるようになったからだ。頭の中の記憶が記録という形で物化されることによって情報が共有され、蓄積されるようになった。そのことは、力説しても力説できないくらい重要なことだったが、その結果、情報とその情報を共有するためのネットワークの爆発的な発展が起きてしまった。

現代社会がどんなに情報とネットワークに依存しているかの例として、この本では、ミサイルの費用の大半がこれらの運営の費用に費やされているという例を挙げている。現代人はこれらの大量の情報の海におぼれないように泳いでいく必要があるのだ。情報とネットワークの氾濫と混沌の中で情報を管理するための技術が必要となってくる。

情報の海におぼれないための基本的な考え方について著者は次のような順序で考察していく。

  1. 有益な情報をいかに蓄積するか
  2. 蓄積した情報をいかに効率的に検索するか。検索の方法は大別して、階層型の分類、索引(カード)の作成の二つがある。
  3. 秘書や情報機械の活用によって情報を取り扱う能力をいかに拡充するか
  4. 情報の媒体となるメディアは物理的な空間を持っているので、情報の廃棄、アブストラクトの作成などでそれをどうやって圧縮するか
  5. 分類は情報の静的な処理だが、情報やネットワークの状態はダイナミックに変化しているので、その変化に追従していくにはどうするか。

これらの問題に対して本書で提案されている方法はさすがに時代を感じさせるが、問題提起の内容自体は全く古さを感じさせない。それは、情報の性質として、無限に増殖していくという特質があるからだと思う。情報の無限の増大傾向は、スケールフリーネットワークを思い起こさせる。ハブの存在などの特徴も大切だろうが、情報には限りがないということにめまいを覚える。また、次々に増殖していく情報はまるで生き物のようにも感じられる。この本では、とくに深くは触れていないが、このような情報を点の集合としてではなく、ネットワークとして捕らえようとしている視点が印象に残った。

勉強法のハウツー本を読むと、共通している問題意識は、どのようにすばやく大量の情報を蓄積するか、どのように効率的に大量のデータの中から必要な情報を抽出するかということだ。管理人が、思考法や速読術に興味を持ち続けているのもおなじ切実な理由があるからだ。しかし、この本を読むことで、問題点がどこにあったのかということがすっきり分かったような気がする。

大量の情報を蓄積し効率よく検索することができるように自分の環境と脳を整えることは避けられない問題ではあるが、本当にそれだけで一生を終わっていいのかも考える必要がある。
by tnomura9 | 2007-06-03 10:30 | 考えるということ | Comments(0)
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