前回の素朴集合論のモデルは、集合も個体もすべて等しく対象として扱い、集合は対象間の所属関係から導くやり方だったが、別のモデルも考えることができる。 領域 D が対象 a0, a1, ... , an, ... の集合であるとする。このとき、領域 D に対し領域 D の部分集合の集合である冪集合 D* を考える。すると、領域 D の要素の部分集合は全て、冪集合 D* の要素として表すことができる。つまり、領域 D の要素の集まりである集合という対象を領域 D の冪集合の要素として表すのである。 前回のモデルでは、集合も個体もすべて領域 D の対象であり、述語 P(x) は等しくそれらの対象に適用された。しかし、今度のモデルでは、領域 D の対象の名前空間は領域 D の要素として存在するが、対象の集合の名前空間は冪集合 D* の要素として表現され、対象と集合の名前空間は別になる。したがって、領域 D の要素に対する述語、すなわち、領域 D の要素に対し0または1を返す関数 P(x) について、内包的定義で集合を定める場合、内包的定義は次のようになる。 {x ∈ D | P(x)} つまり、述語は領域 D の要素に適用されるが、述語を用いた内包的定義で定義される集合は、冪集合 D* の要素となる。これは、ラッセルの階型理論に似ていると思うが、階形理論を勉強していないのではっきりしたことは分からない。 このような集合の内包的定義の利点は、領域 D の全ての部分集合を内包的定義で定義できるということである。前回述べたような、領域 D の対象で集合も個体も等しく表現するような方法では、領域 D の述語の中にその内法的定義による D の部分集合が D の対象として表現できないものが存在したが、今回のモデルの内包的定義ではそのようなことはない。 領域 D の述語は全て冪集合 D* の要素と対応するため、述語 P(x) による内包的定義は冪集合 D* の要素と同型である。したがって、述語 P(x) についての論理演算、たとえば P(x) ∧ Q(x) や ¬ P(x) のようなものは全て冪集合 D* の集合演算に対応する。また、領域の要素とその集合の名前空間が違うので R(x) = ¬ (x ∈ x) のような自己言及する述語は発生せず、ラッセルのパラドックスは発生しない。 領域 D の集合の集合のようなものを考えたいときは冪集合 D* の冪集合 D** を考えることで、その要素で集合の集合を表すことができる。またDの要素とDの集合のペアについて考えたいときは D と D* の直積集合 D × D* を新しい領域として考え、その冪集合は直積集合の要素の集合を表すことができる。さらに、D と D* を等しく対象として考えたいときは D と D* の和集合を領域として考えればよい。 このやり方は Haskell のような型付づけられた関数型のプログラミング言語に似ている。このモデルでどのような数学理論が構築できるかはわからないが、パラドックスが発生しない(ようにみえる)点で魅力的なモデルだ。ただ、構成が均一ではなく複雑になるのが難点だが。
by tnomura9
| 2019-03-11 07:05
| ラッセルのパラドックス
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