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ソクラテスは死ぬ

全ての人間は死ぬ。ソクラテスは人間である。ゆえにソクラテスは死ぬ。という推論を述語論理学の演繹規則から推論してもよいが、直感的なイメージが湧かない。

ここで領域 D の対象 x が人間であるという述語を A(x) とする。また、x が死すべきもの (mortal) であるという述語を B(x) とする。そうするとすべての人間は死ぬという命題は次のようにあらわされる。

∀x(A(x) -> B(x))

ここで、述語 A(x) -> B(x) の真理集合を求めてみる。命題論理では命題 A(a) -> B(a) は、¬A(a) ∨ B(a) に等しい。したがって、述語 ¬A(x) ∨ B(x) の真理集合は A(x) の真理集合 A* の補集合と B(x) の真理集合 B* の和集合になる。これは、簡単な図によって視覚化できる。領域 D を長方形の内部で表し、A* と B* を一部が重なる円の内部で表せばよい。図に書くとすぐにわかるように領域 D 内の ¬A(x) ∨ B(x) の真理集合は領域 D を埋め尽くすことはなく A* - B* の部分が空白になる。

∀xP(x) が真になる必要十分条件はこの命題の真理集合が領域 D と等しいことだから、上の場合のように穴があっては困る。したがって、∀x(A(x) -> B(x)) の真理集合が領域 D と一致するためには A* と B* の間に何らかの関係がある必要がある。

述語 A(x) -> B(x) の真理集合に穴があったのは、その部分を B* がカバーできなかったからだ。B* が A* - B* をカバーできていれば、述語 A(x) -> B(x) の真理集合は領域 D と完全に一致することになる。そういうことは起こりえる。つまり、A* が B* の部分集合であればよいのだ。A* が B* の部分集合であれば A* - B* は空集合だ。この場合は A(x) -> B(x) の真理集合は領域 D の中で穴を持たず、領域 D と一致する。

したがって、∀x(A(x) -> B(x)) の仮定の下では、A* ⊂ B* である。この時は対象 a がソクラテスであるとすると a ∈ A* なら a ∈ B* は自明である。すなわち B(a) は真であるのでソクラテスは死ぬことがわかる。

一階述語論理の1変数(アリティが 1 )の命題関数については、このように、論理的推論を含めてすべての論理学的な考察が真理集合の集合演算で理解することができる。ただし、このためには条件がある。領域 D という対象の集合がはっきりしていることと命題関数の排中律が保証されていることだ。

一階述語論理を真理集合の論理演算としてとらえると、述語論理の視覚的イメージが作りやすくなる。ただし、領域 D の存在と排中律の成立が必須の条件になる。

by tnomura9 | 2017-08-11 18:47 | ラッセルのパラドックス | Comments(0)
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