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命題論理(6)

6.命題の真理値の求め方には演繹的方法(真理表)と帰納的方法(真理値関数)がある

含意の真理値表は次のようになる。

A | B | A -> B
T | T | T
T | F | F
F | T | T
F | F | T

このような真理表は初学者でもすぐに作れるようになる。まず、命題 A と 命題 B の真理値の考え得る全ての組合せを作って表に記入する。それから、含意の真理値のルールに従って、命題 A、命題 B のそれぞれの真理値に対応する含意の真理値を書き込んでいけばいいだけだからだ。

含意のルールとは「A が真であって、B が偽であることはない」だから、V を真理値関数とすると V(A) = T で V(B) = F の時が A -> B の真理値は F で、それ以外の組合せの時は A -> B の真理値は T になる。至極簡単だ。これは演繹的な方法で真理表を作成する場合である。

しかし、真理値表の見方は逆の方向もある。すなわち A -> B が真の場合、A と B の真理値の組合せにはどのようなものがあるかということだ。これも真理値表が完成していれば簡単にわかる。つまり、A -> B が T となる行を見つけて、その行の A と B の真理値の組合せを見つければいいからだ。

つまり ( V(A) = T, V(B) = F), (V(A) = F, V(B) = T), (V(A) = F, V(B) = F) の3つの真理値の組である。

しかし、これは真理値表をあらかじめ作成していた場合である。真理値表を作成する前にこのような A と B の真理値の組を見つけるにはどうすればいいだろうか。それは A -> B のルールと A -> B の真理値をもとに A と B の真理値を逆算する方法である。これは帰納的な方法になる。

V(A -> B) = T の時、A -> B の真理値を決めるルール「A が真であって、Bが偽であることはない」から、A と B の真理値を推測できるだろうか。A -> B の上のルールは二重否定があるので少々扱いにくい。そこで、それと等価な「A が偽であるか、または、Bが真である」というルールを使うことにする。すると命題 A が偽の時は B は真でも偽でもよく、それ以外つまり A が真の時は B は真になるということがわかる。従って (V(A) = F, V(B) = T), (V(A) = F, V(B) = F), (V(A) = T, V(B) = T) の3つの組合せであることがわかる。

2番目の帰納的な方法は、ある命題がトートロジーかどうかを調べるときに便利だ。命題 C がトートロジーならその真理値は常に T なので、 V(C) = F と仮定してその原子命題の真理値を調べると、どこかで矛盾が起きてくるはずだからだ。ボタンの数と穴の数があっていない時に掛け違いが避けられないようなものだ。

例えば A -> (B -> A) はトートロジーだが、ちょっと目にはそれがトートロジーかどうかは分からない。そこで、V(A -> (B -> A)) = F であると仮定してみる。いわゆる背理法だ。この命題の一番外側の含意に注目すると、この真理値が F となるのは V(A) = T かつ V(B -> A) = F の時だ。そこで、さらに V(B-> A) = F に注目すると、V(B) = T かつ V(A) = F である。従って V(A -> (B -> A)) = F の時は、

V(A) = T かつ (V(B) = T かつ V(A) = F)

となる。V(A) = T かつ V(A) = F という事態は起こりえないから、結局 V(A -> (B -> A)) = F は否定される。すなわち A -> (B -> A) はトートロジーである。

『数学基礎論講義』では命題の真理値を計算する関数を次のように定義してある。

(1) A が原子命題のとき、V(A) = v(A) ... ただし v(A) は原始命題 A に真理値を割り当てる関数。
(2) V(¬A) = T ⇔ V(A) = F
(3) V(A ∧ B) = T ⇔ V(A) = T かつ V(B) = T
(4) V(A ∨ B) = T ⇔ V(A) = T または V(B) = T
(5) V(A -> B) = T ⇔ V(A) = F または V(B) = T

このルールを使えば任意の命題がトートロジーであるかどうかは、このルールを帰納的に適用することによって調べることができる。命題論理学の推論では、命題がトートロジーであるかどうかが焦点になるのでこのような真理値関数のルールを使った帰納的な推論が多用される。

また、命題論理の命題は、原子命題と論理記号の記号列であるから、それがトートロジーであるかどうかをその記号の配列のみから推論できるのは都合がいい。

さらに、述語命題の場合はこれらのルールに、

∀xΨ(x) ⇔ 全ての a について Ψ(a) が真

のようなルールが加わるが、a が有限個の場合は A0 = Ψ(a0), A1 = Ψ(a1), ... , An = Ψ(an) のように原子命題に分解して議論できるが、a が無限集合の要素で無限に存在する場合は、無限の原子命題を考えないといけなくなるので真理表を作ることすらできなくなってしまう。

この場合でも帰納的に命題の記号列からその真理値を予測する方法であれば、その命題がトートロジーであるかどうかを判定することができる。

このように、真理表を演繹的に作成する方法は理解しやすく、帰納的に分析する方法は拡張性に富んでいる。

by tnomura9 | 2016-08-02 04:19 | 考えるということ | Comments(0)
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