素朴集合論にはラッセルのパラドックスのようなものが発生するので、何か不可思議なものが潜んでいるような気がする。しかし、素朴集合論の本体は、集合とはものの集まりという「もの」であるという定義によってつくられる、要素(もの)の有向グラフでしかない。
つまり、素朴集合論の世界は要素(集合を含む)をノードとし、所属関係を有向エッジとする、有向グラフで表すことができる。したがって、この有向グラフは、要素(集合を含む)のリストとリストの要素間の所属関係の演算表で完全に記述できる。 例えば、集合 a1, a2, a3 を要素とする集合 U について考えてみる。すなわち、 U = { a1, a2, a3 } である。また、これらの要素は、U の要素を要素として含んでおり、次のような関係にあるとする。a1 = {a1}, a2 = {a2}, a3 = {a1, a2} するとこれらの要素の所属関係について次のような演算表を作ることができる。演算表の値の 1 はその行の要素が、列の要素を要素として含んでいることを示し、0 は行の要素が列の要素を要素として含んでいないことを示している。 ** a1 a2 a3 a1 1 0 0 a2 0 1 0 a3 1 1 0 U のグラフはこの U のリスト {a1, a2, a3} と上の演算表で完全に記述できる。また、要素の外延は演算表の値が 1 になる要素を集めることでわかる。 素朴集合論の世界はこのような単純な有向グラフなのだ。 しかし、素朴集合論の定義では、集合の集合もまた集合になる。実際、要素 a1, a2, a3 以外にも a1 a2 a3 を要素とする集合は演算表には乗っていない、{a3}, {a1, a3}, {a2, a3}, {a1, a2, a3} などがあるので、これらを a4, a5, a6, a7 とすると U を拡張して {a1, a2, a3, a4, a5, a6, a7} にする必要がある。もちろん演算表も改訂しなければならない。 しかし、そうして拡張した U も U の要素を要素とするような集合を全て記述することはできないから U の拡張は延々と続くことになる。素朴集合論の世界とは、このような無限に拡張されていく有向グラフなのである。 素朴集合論ではこのように U が次々に拡張されていくが、そのどの U についても、前回論じたように、U の要素のうちで「自分自身を要素として含まない集合の集合」を表す要素を U の内に求めることはできない。また、U は拡張するたびに、U の要素で構成される集合のうち U の要素では表されていないものが発生する。したがって、素朴集合論では、全ての集合の集合というものを作ることはできない。 このように、ラッセルの集合は素朴集合論では発生しない。ラッセルのパラドックスはそのような集合が存在するという仮定のもとでの現象だ。したがって、そのような集合はないので、パラドックスも発生しない。
by tnomura9
| 2016-05-14 08:16
| 考えるということ
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