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演算表を調べる

三角形のパズルの群 G の演算表は下のように 6 × 6 の小さな表だが、群の特徴がたくさん詰まっている。

       a1 a2 a3 a4 a5 a6
--------------------------
a1 | a1 a2 a3 a4 a5 a6
a2 | a2 a3 a1 a6 a4 a5
a3 | a3 a1 a2 a5 a6 a4
a4 | a4 a5 a6 a1 a2 a3
a5 | a5 a6 a4 a3 a1 a2
a6 | a6 a4 a5 a2 a3 a1

1. 単位元

a1 は特異な操作でこれを他の操作と連結してもその操作を変えない。つまり、

a1ai = aia1 = ai

である。これを単位元といい e で表す。群 G では e = a1 である。

       a1 a2 a3 a4 a5 a6
--------------------------
a1 | a1 a2 a3 a4 a5 a6
a2 | a2 a3 a1 a6 a4 a5
a3 | a3 a1 a2 a5 a6 a4
a4 | a4 a5 a6 a1 a2 a3
a5 | a5 a6 a4 a3 a1 a2
a6 | a6 a4 a5 a2 a3 a1

2. 逆元

群 G のどの要素についても bai = aib = e となるような要素 b が存在する。このような b を ai の逆元といい、ai-1 で表す。下の演算表で、結合演算の結果が a1 になるような要素のペアは互いに逆元である。

       a1 a2 a3 a4 a5 a6
--------------------------
a1 | a1 a2 a3 a4 a5 a6
a2 | a2 a3 a1 a6 a4 a5
a3 | a3 a1 a2 a5 a6 a4
a4 | a4 a5 a6 a1 a2 a3
a5 | a5 a6 a4 a3 a1 a2
a6 | a6 a4 a5 a2 a3 a1


3. 部分群

群 G の演算表のうち a1, a2, a3 だけの演算表を取り出すと、この演算は {a1, a2, a3} の中で完結しており、単位元と逆元を含んでいる。つまり、集合 g = {a1, a2, a3} も群である。群 g を 群 G の部分群という。

       a1 a2 a3 a4 a5 a6
--------------------------
a1 | a1 a2 a3 a4 a5 a6
a2 | a2 a3 a1 a6 a4 a5
a3 | a3 a1 a2 a5 a6 a4
a4 | a4 a5 a6 a1 a2 a3
a5 | a5 a6 a4 a3 a1 a2
a6 | a6 a4 a5 a2 a3 a1

4. 右剰余類

部分群 g = {a1,a2,a3} と群 G = {a1,a2,a3,a4,a5,a6} の各要素との連結を調べてみると、

a1g = {a1, a2, a3}
a2g = {a2, a3, a1}
a3g = {a3, a1, a2}

のように連結の結果が g に属するものと

a4g = {a4, a5, a6}
a5g = {a5, a6, a4}
a6g = {a6, a4, a5}

のように Gの部分集合 {a4, a5, a6} に属するものに類別される。{a1, a2, a3} と {a4, a5, a6} は共通部分を持たず、また、要素の個数は同数である。つまり、群 G は部分群 g = {a1, a2, a3} によって類別される、つまり、G が {a1, a2, a3} と {a4, a5, a6} という2つの部分集合に分割される。

a4g = {a4, a5, a6} で右剰余類を求めることができるが、a4 はこの類に属するのだろうか、結果を見る限りは属するようである。実際 g = {a1, a2, a3} であり、a1 = e つまり a1 は単位元であるから、a4a1 = a4 である。したがって、a4g で右剰余類を求めるときに a4 はその右剰余類の代表元である。

このとき、類 {a1, a2, a3} と {a4, a5, a6} の代表元を bi とすると、Gの要素は biai で一意的に表せる。例えば a2g = {a1,a2,a3}, a4g = {a4,a5,a6} だから、b1 = a2, b2 = a4 とすると、次のように群 G の全ての要素が {b1, b2} と {a1, a2, a3} の直積で表すことができる。

a1 = a2a3 = b1a3 ... (b1, a3)
a2 = a2a1 = b1a1 ... (b1, a1)
a3 = a2a2 = b1a2 ... (b1, a2)
a4 = a4a1 = b2a1 ... (b2, a1)
a5 = a4a2 = b2a2 ... (b2, a2)
a6 = a4a3 = b2a3 ... (b2, a3)

また、G の演算表からは G の部分群として {a1, a4} がある事がわかる。{a1, a4} の演算表は次のようになるので、これが群であることがわかる。

       a1 a4
------------
a1 | a1 a4
a4 | a4 a1

それでは部分群 h = {a1, a4} による G の右剰余類はどうなるだろうか。

a1h = {a1, a4}
a4h = {a4, a1}

a2h = {a2, a6}
a6h = {a6, a2}

a3h = {a3, a5}
a5h = {a5, a3}

となって、群 G は {a1, a4}, {a2, a6}, {a3, a5} という3つの部分集合に類別される。また、群 G の全ての要素はたとえば {a4, a2, a5} と {a1, a4} の直積で一意的に表される。

5. 要素の位数

群 G の要素 a2 の累乗を調べてみると、a1, a2, a2a2, a2a2a2, a2a2a2a2, a2a2a2a2a2, ... と無限に続けることができるが、実際には上の数列を演算表で評価すると、

a1, a2, a3, a1, a2, a3, ...

のように {a1, a2, a3} の要素が繰り返し出現するだけである。実際、a2 は正三角形を時計回りに120度回転させる操作だったから、3回回転させると元のホームポジションに戻ってしまう。a2 という操作を続けても、正三角形はだたぐるぐる回るだけだ。このような場合には、要素 a2 の位数は 3 であるという。また {a1, a2, a3} は群 G の部分群である。

要素 a4 の場合は、
a1, a4, a4a4, a4a4a4, a4a4a4a4, ... = a1, a4, a1, a4, a1, a4, ...

なので a4 の位数は 2 で部分群は {a1, a4} である。a4 は三角形を裏返す操作だから、裏返したものをまた裏返すと元に戻ってしまう。つまり何もしない操作 a1 と同じになる。こうして a4 という操作を繰り返すと三角形は裏になったり表になったりを繰り返すことになる。

6. 準同型写像

群 G = {a1, a2, a3, a4, a5, a6} と群 H = {b1, b2} はどちらも集合だ。したがって、集合 G から集合 g への写像 φを考えることができる。この場合例えば a1 = φ(a2) のようになる。しかし、群 G も群 g も単なる集合ではない。それらには2項演算が定義されており、その2項演算の値は、それぞれの群の要素である。したがって、関数 φ がそれぞれの2項演算を保存してくれればいろいろと便利だ。つまり、

φ(xy) = φ(x)φ(y)

になって欲しい。つまり、群 G の要素 xy の積を先にとり、それをφで群 g に写像した φ(xy) と、群 G の要素 x, y のファイによる群 g への写像、すなわち、φ(x) と φ(y) の積 φ(x)φ(y) が一致して欲しい。手続き的な表現をすると、先に掛けて写像しても、写像してから掛けても結果が同じになってほしい。

このような写像を準同型写像というが、群 G と 群 g の間にも準同型写像 φ を定義することができる。具体的には次のような対応関係でφを定義する。

b1 = φ(a1)
b1 = φ(a2)
b1 = φ(a3)

b2 = φ(a4)
b2 = φ(a5)
b2 = φ(a6)

これは集合 G から集合 H への多対1対応だ。問題はこれに上に述べたような演算の保存があるかどうかということだ。そこで、群 G と群 H の演算表を調べてみる。

       a1 a2 a3 a4 a5 a6
--------------------------
a1 | a1 a2 a3 a4 a5 a6
a2 | a2 a3 a1 a6 a4 a5
a3 | a3 a1 a2 a5 a6 a4
a4 | a4 a5 a6 a1 a2 a3
a5 | a5 a6 a4 a3 a1 a2
a6 | a6 a4 a5 a2 a3 a1

       b1 b2
------------
b1 | b1 b2
b2 | b2 b1

群G の2項演算と群 H の2項演算の間には何の関連性も必要ない。しかしφを上に述べたように定義すると、

φ(a2a3) = φ(a1) = b1, φ(a2)φ(a3) = b1b1 = b1 ゆえに φ(a2a3) = φ(a2)φ(a3)
φ(a3a5) = φ(a6) = b2, φ(a3)φ(a5) = b1b2 = b2 ゆえに φ(a3a5) = φ(a3)φ(a5)

群 G は元々正三角形の重ね合わせの操作の群であるから、三角形の回転と反転の操作を含んでいる。しかし、φ によって群 H への準同型写像が存在するということは、群 H は群 G の中の反転の操作のみを抽出しているとも言える。準同型写像の意味は単に2項演算を保存する多対1の写像であるが、実例ではそれ特有の意味付けができるところが面白い。

7. 自己同型群

群 G と群 H の準同型写像は一般には多対1の写像だが、群 G と群 H の写像が1対1対応だと、同型写像になる。このとき、群 G と群 H は同型となり、演算の意味付けは異なっても演算の構造が同じことを示している。このような同型写像は群それ自身にも作ることができる。例えば G = {a1,a2,a3,a4,a5,a6} の個々の要素に対し、a1 = φ(a2), a2 = φ(a3), a3 = φ(a4), a4 = φ(a5), a5 = φ(a6), a6 = φ(a1) というような写像を考えると、この写像は群 G の自己同型写像となる。また、この写像は a1, ..., a6 の置換のひとつと考えられるから群 G に対し考えられる限りの置換 φ1, φ2, ..., φ6 を考えると集合 {φ1, φ2, ... , φ6} は置換の結合についての群になる。これを自己同型群という。


8. まとめ

上で述べたような議論は、三角形を台紙の三角枠に重ねるパズルを出発点にしているが、次第に操作の連結の演算表を用いた議論へと移ってゆき、三角形の回転や反転などの性質が見えにくくなってくる。つまり、三角形の移動という具体的な操作が、演算表に抽象化されることで、群という操作の集合の話に抽象化されるからだ。演算表の考察になると、それが三角形の対称移動であるかどうかはもはや問題ではなく、操作の連結という2項演算をもった、操作の集合の話になってしまう。

しかしながら、それが抽象的な議論であるために、右剰余類による類別のような結果は、三角形の対称移動にかかわらず様々な操作の集合である群に共通する性質であることがわかる。

とはいえ、G の部分群 {a1, a2, a3} が三角形の回転の性質であることや、部分群 {a1, a4} が三角形の反転の性質であることを知れば、いろいろな部分群の性質の特徴が見えてくる。抽象と具象は互いに補いあいその理解を深める性質のものだ。

ここに述べたことは群論のほんの入口で、だんだんと面白くなっていく。したがって、この記事だけを読んでも群論の勉強にはならない。しかし、三角形のパズルから出発して、抽象性の高い群論に取っ掛かりをつけることができたのではないかと思う。言いたかったのは、一旦抽象概念の具体的なイメージができてしまえば、それらの議論を追いかけるのが随分楽になるということだ。
by tnomura9 | 2015-06-04 20:33 | 考えるということ | Comments(0)
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