用語の定義の重要性

学生のころ教科書を読むときに、用語の定義が出てくると軽く読み飛ばしていた。用語の定義だけを読んでも抽象的なことが多く、何の事を書いてあるのか理解できないことが多かったからだ。

言葉というのは記号の代表選手だ。記号は直接的に目に見える「記号表現」とその記号表現が差し示す「記号内容」からなっている。記号内容が分かっていなければ、記号表現は単なる無意味な文字の羅列でしかない。したがって、教科書を読むときは、記号表現の羅列に過ぎない用語の定義の部分は素通りして、本文に書いてある、その用語についての具体例の方を先に読みがちになる。

たとえば、HTMLのスタイルシートについて次のように定義されているとする。「スタイルシートはHTMLのタグと組み合わせて使用するもので、HTML文書(Webページ)の『見た目』に関する指定をするしくみです」(『HTML&スタイルシート』 シーズ著 技術評論社)。これを読んでもスタイルシートがどのようなものかすぐにはイメージできないだろう。

しかし、HTML文書の head タグの中に <style type="text/css">タグを設けて、その中に p { color: red ; } などと書いて、それがHTML文書の文字の色を赤に変えるのを見たりしている内に、何となくスタイルシートがどのようなものか分かってくる。

記号の定義はとばして、具体例の方を先に覚えようとするのは間違いではない。

しかし、「犬」という言葉がなければ、犬を他の動物から区別することはできない。「記号内容」も大切かもしれないが、「記号表現」がなければ、概念は概念として存在できないのだ。

CSSのスタイル宣言は、『セレクタ」と「宣言ブロック」からなっている。実用的には p { color: red; } はHTML文書の p タグの文字の色を赤にするという漠然とした理解で構わないが、上の定義のように p の部分は「セレクタ」で {} で囲まれた部分は「宣言ブロック」であるときちんと分離して考えることでスタイル宣言の構造がはっきりと理解できる。

また、セレクタには h1 や p のような単純なものから、e:link/e:visited などのように複雑なものまであり、さらにそれらのシンプルセレクタが div > p[align] のように組み合わせて使われたりすると簡単には覚えられない。しかし、これらの多様な記述が皆「セレクタ」として一まとめにできるのだ。そうして、セレクタはHTML文書の要素の集合を指定できるのだということが分かる。

ここで、重要なのは、セレクタが指定しているのはHTMLの複数の要素だということだ。言葉を変えると、セレクタは個々の要素ではなく、その条件を満たす要素の集合を指定しているということだ。ここが、セレクタでHTML文書の要素を指定するのと、個々の要素に style 属性を指定することの決定的な違いなのだ。

したがって、セレクタを使ってHTML文書の要素の見え方をコントロールすることは、個々の要素の style 属性を記述するのとは全く別の発想で設計しないといけないことがわかる。それが分かれば、なぜ jQuery のオブジェクトが複数の要素からなっているかが理解できるし、jQuery オブジェクト一個とHTML文書の要素一個を対応させて考えるのは誤りであることが分かる。

用語の定義の意味は、具体例を知らなければ分からないのは当然だが、個々の具体例の知識だけでは、用語の持つ抽象性の力を感じることはできない。「記号表現」と「記号内容」は不可分にお互いを補っている。

記号では、このように「記号表現」と「記号内容」は不可分の関係にある。しかし、記号内容は目には見えないため、記号の理解についてどうしても個人によって差ができてしまうことも事実だ。記号の定義は抽象的な定義によって、記号表厳と記号内容の関係を明確にするための、必須の条件なのだ。

いろいろな職種の人が集まって会議をするときに、冒頭に用語の定義をしておくと、議論がスムースに進んだということを何かで読んだことがある。抽象的な用語の定義であるが、その抽象性の故に絶大な効果を表すということを示している。
[PR]
by tnomura9 | 2011-01-05 08:25 | 考えるということ | Comments(0)
<< CLEditor の構造 神は細部に宿る >>