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チューリングの斑点

日経サイエンス8月号に、自己組織化する視覚チップの話が載っていた。この視覚チップを、人工網膜チップと結合すると、大脳皮質と同じような方位選択性ニューロンのカラム構造が自動的に発生する。そのメカニズムにチューリング機械で有名なチューリングの拡散波の理論を利用していると書いてあった。

そこで、「チューリング 斑点」で検索してみると、沢山出てきた。どうもチューリングの理論は、生物学や、発生学や、ナノテクノロジーなどで今盛んに研究されているらしい。

チューリングが何について理論を立てたのかと言うと、牛の斑点や、シマウマや熱帯魚の縞模様がどういう風にできるのかを説明する理論なのである。それによると、細砲どうしが化学物質をやりとりすることによる単純な相互作用が原因で、ひとりでに牛の体の斑点のような複雑な模様ができてしまうらしいのだ。

チューリングは1956年の論文で、生物の縞模様が、細胞から分泌される、発色反応の活性因子と、抑制因子の伝達速度の違いがあると、拡散する化学物質の波が発生し、それによる定常波によって安定に斑点や縞模様ができると述べた。縞模様は最初の細胞の特性の不均一性と、活性因子と抑制因子のバランスによって変化する。

チューリングの理論は次のような仮定からなっている。(www.nanoelectornics.jpより)

いくつかの隣接した細胞では物質の交換がある(拡散)。
それぞれの細胞では化学反応が進行している。
化学反応では活性因子(activator)Xの関与する正のフィードバック機構と、抑制因子(inhibitor)Yの関与する負のフィードバック機構が存在している。
抑制因子は活性因子よりも速く拡散する。

そうしてその相互作用は次の微分方程式で記述できる。

∂X/∂t = f (X,Y) + Dx2X

∂Y/∂t = g (X,Y) + Dy2Y


非線形なので解を求めるのは難しいがコンピュータシミュレーションすることができる。

ひょっとしたらチューリングの方程式は神経回路の動作機構のセントラルドグマなのかもしれない。大脳皮質は人間の脳の体積のほとんどを占めているが、その6層構造は驚く程均一だ。したがって、そのメカニズムも基本的には非常に単純な可能性がある。それが拡散波の理論だとしたら脳の機構の解明と応用が以外に早く実現するかもしれない。
by tnomura9 | 2005-07-13 08:00 | 脳の話 | Comments(0)
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