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カテゴリ:脳の話( 19 )

書評 - 記憶と情動の脳科学

『記憶と情動の脳科学』 ジェームズ・L・マッガウ著 大石高生/久保田競 監訳 講談社ブルーバックス が面白かった。

これによると、短期記憶と長期記憶は独立して働いているようだ。両側の側頭葉に障害があると、短期記憶が傷害されるが、長期記憶は完全に保たれる。短期記憶は海馬と尾状核で行われ、長期記憶は大脳皮質で行われる。

短期記憶が長期記憶に変化するためには、海馬と尾状核で「固定化」という機構が働かないといけない。学習操作の「直後に」薬物を投与することによって「固定化」に影響を与えることができる。

また、記憶の種類によって記憶の固定化に関係する脳の部位が異なる。場所学習や陳述記憶は海馬で、反応学習や非陳述記憶は尾状核で行われる。

記憶を増強したり、妨害したりする薬物は、学習の前ではなく、直後に投与することによって学習の固定化に影響させることができる。これらは、短期学習で学習したものが、長期記憶に「固定化」されるメカニズムに影響していると考えられる。

これらの薬物は、脳内受容体を介して記憶に影響する。GABA受容体、オピオイド受容体を活動させると記憶は抑制され、グルタミン酸受容体、アセチルコリン受容体、カテコラミン受容体を活性化すると記憶は促進される。

扁桃体外側基底核は、短期記憶の学習には影響しないが、海馬と尾状核の短期記憶の固定化を強く促進する。扁桃核は情動の中心なので、短期記憶の学習後の強い情動体験は記憶の固定化を強固にする。

長期記憶自体も生涯残るものと、逆行性健忘に見られるように、長期間残っているが固定されていないものとがある。

最後に、強すぎる記憶は、かなりの心理的な負担になる。忘れることも大切な脳の働きなのだ。
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by tnomura9 | 2007-03-28 05:44 | 脳の話 | Comments(0)

「脳だらけ」遺伝子

「脳だらけ」遺伝子というのが発見されたらしい。正式な名称も nou-darake (ndk) 遺伝子である。この遺伝子からできるたんぱく質が欠損すると、プラナリアの体中に脳ができてしまう。

この遺伝子からできるたんぱく質はFGF受容体によく似た構造をしているが、細胞膜の外側にしか露出していないので、FGFのリガンドと結合しても細胞内に情報が伝わらない。偽の受容体のようなものだ。このたんぱく質が脳にしか発現しないので、FGFのリガンドは脳以外の所に拡散しない。またndk遺伝子蛋白は、FGF受容体にリガンドを提示する役目もはたしているようだ。FGF受容体にリガンドが結合すると万能細胞が神経に分化していく。したがって、通常はリガンドがndk遺伝子蛋白にトラップされて脳に限局するため、脳でしか神経の発生は起きないが、人工的に遺伝子をノックアウトして脳だらけ遺伝子が発現しなくなるとリガンドが全身に拡散して体のあちこちに脳を作ってしまう。

しかし、nou-darake 遺伝子なんてふざけた名前を正式の学術用語にしてしまうなんて、粋だなあ。

理化学研究所のページ
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by tnomura9 | 2005-11-13 14:17 | 脳の話 | Comments(0)

体温調節

動物の脳室にセロトニンを注入すると体温が上がり、ノルアドレナリンやドーパミンを注入すると体温が下がるそうだ。

体温調節の中枢は後部視床下部にあり、前部視床下部の温受容器と皮膚の冷受容器からの入力を受けている。しかし、セロトニンが何処に効いているのか調べたけれどはっきりしたことは分からなかった。

向精神薬やSSRIを投与したときの高熱はセロトニンとノルアドレナリンのバランスが崩れるために起こるのではないかと考えられている。
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by tnomura9 | 2005-07-28 12:47 | 脳の話 | Comments(0)

セロトニン症候群

抗鬱剤のSSRIとMAOIを併用したときなどにみられるセロトニン中毒症状をセロトニン症候群と言う。

精神状態の変化(錯乱、軽躁)、焦躁、ミオクローヌス、反射の亢進、発汗、悪寒、振戦、下痢、協調運動障害、発熱などがみられる。

セロトニンが増えると元気が出るといっても、「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのだ。
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by tnomura9 | 2005-07-26 16:54 | 脳の話 | Comments(0)

幸せのニューロン

久恒辰博著 「幸せ脳」は自分でつくる 講談社α新書 によると、人間は幸せを感じるとき大脳辺縁系の帯状回前皮質が特に強く活動するそうだ。また、悲しい気持ちのときは帯状回後皮質が強く活動するらしい。

帯状回前皮質の第5層には特別大きなスピンドルニューロンという神経細胞があって、これが幸せのニューロンなのではないかということだ。

脳の活動の画像診断で注意しなければならないのは、SPECTやPETで活動が強いところでも本当にそこで幸せを感じているのかどうかは分からないということだ。これは、統計的に有意な相関があってもそれがそのまま直接の原因と断定することは出来ないということと同じだ。

しかし、脳の活動の画像化をしている研究者がALSで体も動かない、声も出ない人の脳をスキャンして意識があり、耳からの音に反応しており、外からの問いかけに脳の反応で返答しているのを見つけたという記事が朝日新聞に載っていた。さらに、その記事の中で、この研究者が脳の中を覗くことで個人のプライバシーまで覗いてしまうのではないかと思うときがあると言っていた。

脳の研究が進むことでより合理的に幸せになる方法も見つかってくるだろうが、心の中が読まれたり、心を操作されたりする危険性も発生してくるのではないだろうか。
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by tnomura9 | 2005-07-20 23:49 | 脳の話 | Comments(0)

自己組織化

管理人が学生の頃、これからの生物学のフロンティアは神経生理学と発生学ではないかと思っていた。

この両者に共通するキーワードは自己組織化だ。神経はその複雑な構造を自動的に作り上げる。受精卵も卵割を繰り返しながらひとりでに各部の器官を形成してくる。これらは、精密な設計図によるというよりも、細胞間の相互作用から生じる自己組織化によって進行していくのではないだろうか。自己組織化は数学的には複雑系として扱われているようだ。細胞相互の局所的な、非線形の相互作用が大域的な振る舞いにある規則性を発現する。フラクタルが生物や自然を模倣するように見えるのも、生物が実際そのようなやり方で形態形成しているのかもしれない。

ところで、コンピュータと脳の比較がときどきなされることがあるが、脳と似ているのはコンピュータのハードウェアではなくて、むしろソフトウェアの方ではないだろうか。

脳は基本的にはパターンを処理するフィルターだ。感覚刺激が入力で、筋肉の動きやホルモンの分泌などが出力になるが、それは最末端の話で、脳の内部では単に入力される電気信号や化学刺激を処理して軸索群からの出力パターンに変換しているだけなのだ。

ソフトウェアもそうだ。センサーからの入力やモーターやビデオ画面への出力があるかもしれないが、基本的にはビットデータの入力がビットデータの出力に変換されるだけなのだ。そう考えると神経で見られるような自己組織化がソフトウェアのプログラムにも導入できるかもしれない。

コンピュータのブログラムが複雑になるにつれ、扱うデータが変数から構造体、オブジェクトへと組織化されていく。その先にはデータ自体が自立性を持って相互に通信するという形態があるのではないだろうか。そうして、局所的なプログラム同士の相互作用を定義することによって全体としての大域的な組織化が自然に出来上がってくるというようなプログラムも可能になってくるかもしれない。そのようなプログラムは分散処理をするコンピュータと相性がよいし、デバックに費やされる労力が少なくなるのではないかと思う。

管理人の考えていることは、ライフゲームに似ているなと思って検索していたら、セルオートマトンの専門家のセルオートマトンと複雑系というページを見つけた。Javaプログラムのデモがあってブラウザでそのまま見ることが出来る。(7月24日)
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by tnomura9 | 2005-07-20 03:41 | 脳の話 | Comments(0)

やせ薬

セロトニンとノルアドレナリンの再取り込み抑制剤は体重減少効果があるそうだ。

最初抗うつ剤として開発されたが、そちらのほうの効果は無く体重が減少したので、効能を体重減少に切り替えて開発したらしい。脳内の細胞外セロトニンとノルアドレナリンを上昇させることによって満腹感を亢進させ、また内臓脂肪を減少させる効果がある。副作用としては血圧上昇が見られるので、高血圧を合併している肥満の人は注意が必要だ。

欧米では既に販売されているようだが、日本では認められていない。

そのほかにも、いろいろなメカニズムで食欲を抑えたり、基礎代謝を亢進させる薬が目白押しで開発中らしい。効果があって、副作用の無い夢の痩せ薬が、普通に販売される日も間近なのではないだろうか。

しかし、皆が皆ナイスバディになってしまったら、面白くない気もする。
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by tnomura9 | 2005-07-18 07:12 | 脳の話 | Comments(0)

チューリングの斑点

日経サイエンス8月号に、自己組織化する視覚チップの話が載っていた。この視覚チップを、人工網膜チップと結合すると、大脳皮質と同じような方位選択性ニューロンのカラム構造が自動的に発生する。そのメカニズムにチューリング機械で有名なチューリングの拡散波の理論を利用していると書いてあった。

そこで、「チューリング 斑点」で検索してみると、沢山出てきた。どうもチューリングの理論は、生物学や、発生学や、ナノテクノロジーなどで今盛んに研究されているらしい。

チューリングが何について理論を立てたのかと言うと、牛の斑点や、シマウマや熱帯魚の縞模様がどういう風にできるのかを説明する理論なのである。それによると、細砲どうしが化学物質をやりとりすることによる単純な相互作用が原因で、ひとりでに牛の体の斑点のような複雑な模様ができてしまうらしいのだ。

チューリングは1956年の論文で、生物の縞模様が、細胞から分泌される、発色反応の活性因子と、抑制因子の伝達速度の違いがあると、拡散する化学物質の波が発生し、それによる定常波によって安定に斑点や縞模様ができると述べた。縞模様は最初の細胞の特性の不均一性と、活性因子と抑制因子のバランスによって変化する。

チューリングの理論は次のような仮定からなっている。(www.nanoelectornics.jpより)

いくつかの隣接した細胞では物質の交換がある(拡散)。
それぞれの細胞では化学反応が進行している。
化学反応では活性因子(activator)Xの関与する正のフィードバック機構と、抑制因子(inhibitor)Yの関与する負のフィードバック機構が存在している。
抑制因子は活性因子よりも速く拡散する。

そうしてその相互作用は次の微分方程式で記述できる。

∂X/∂t = f (X,Y) + Dx2X

∂Y/∂t = g (X,Y) + Dy2Y


非線形なので解を求めるのは難しいがコンピュータシミュレーションすることができる。

ひょっとしたらチューリングの方程式は神経回路の動作機構のセントラルドグマなのかもしれない。大脳皮質は人間の脳の体積のほとんどを占めているが、その6層構造は驚く程均一だ。したがって、そのメカニズムも基本的には非常に単純な可能性がある。それが拡散波の理論だとしたら脳の機構の解明と応用が以外に早く実現するかもしれない。
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by tnomura9 | 2005-07-13 08:00 | 脳の話 | Comments(0)

昆虫の脳

人間の脳細胞は140億くらいだが、昆虫の脳は100万くらいだそうだ。

それだけの脳で昆虫は、食物を探索し、生殖し、情報を交換し、社会を形作っている。神経回路の基本原理を調べるのは動物の脳より昆虫の脳のほうが便利なのではないだろうかと思って検索してみたら、まさにSFだった。昆虫の脳を模したロボットあり、マイクロマシンで自由行動をする昆虫の神経活動をモニターしたり、脳の秘密が完全に解明されるのも間もないのだろうか。

鉄腕アトムはまだ現れていないが、今まさに21世紀の世界なんだ。

昆虫の脳関係のリンク

筑波大学 神埼・神経行動学研究室
東北大学大学院 生命科学研究科
東京大学 分子細胞学研究所 高次構造研究分野

東芝のオンラインマガジン「ゑれきてる」
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by tnomura9 | 2005-07-10 12:06 | 脳の話 | Comments(0)

脳の科学のリンク集

最近、脳に興味が出てきて、いろいろと検索しているが、脳の科学についてはインターネット上に専門の研究者の良質のサイトが多いのにびっくりさせられた。たいへんな作業だと思うが、脳の研究を一般に広めることの重要性を感じてのことだと勝手に解釈している。実際、テレビで報道される殺人や、校内暴力、家庭内暴力、引きこもりなどの事件は、脳についての研究成果を活用することで、違った解決法が見つかるのではないかと思う。

脳の科学のリンク集

慶応大学医学部解剖学教室の電子教科書
神戸大学電子図書館の解剖学講義ノート
東邦大学医学部統合生理学教室のシステム神経生理
京都大学霊長類研究所の脳の世界
岡崎国立共同研究機構 生理学研究所
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by tnomura9 | 2005-07-08 19:09 | 脳の話 | Comments(2)