ここ数日「認知文法」が頭から離れない。面白そうなのだが、頭が消化不良を起こしていて、『認知文法のエッセンス』も先へ読み進めない状態が続いている。とにかく、一度自分の言葉で表現してみないと到底先へ進めないような気がする。したがって、今から書くことは全くの誤解かもしれない。
「認知文法」が何を目的としているかというと、結局のところ「文章の意味を確定するのにはどうすればよいか」ということではないだろうか。「認知文法」では、文の意味を「シンボルの構造」としてとらえようとしているように見える。 シンボルとは、ソシュールのいう「記号」のことだ、ソシュールが「記号」というとき、それは目に見える記号や文字ではなく、言葉や標識などの「記号表現」とそれが指し示す記号の意味である「記号内容」の組をひとまとめにしたものを指している。認知文法では、ソシュールの「記号」を「シンボル単位」、「記号表現」を「音韻単位」、「記号内容」を「意味単位」という用語で表しているようだ。 さらに、「認知文法」では「意味単位」の性質を基本的には「カテゴリー」であると考えているようだ。「カテゴリー」とは数学でいう「集合」の「内包的な定義」や、哲学でいう「概念」のようなもので、個別の具体例に共通する性質を抽象しそれに名前をつけたものだ。たとえば、「柴犬」、「チワワ」などは、「犬」というカテゴリーにまとめることができる。「認知文法」では、あるシンボルの「意味単位」は基本的にカテゴリカルであると考えているように見える。 したがって、「シンボル単位」の間には、抽象作用によって、上位の「スキーマ」と下位の「具体例」の関係を見つけることができる。上の例でいえば、「犬」というシンボルは、「柴犬」、「チワワ」のスキーマであり、「柴犬」、「チワワ」などは、「犬」の具体例であるという具合だ。「認知文法」では、語順のような文法的な構造もスキーマの一種であるとして、言語をスキーマと具体例という抽象作用で統一的に分析しようとする。 要するに、「認知文法」の立場では、文章の意味を確定する方法として「パターン認識」を基礎に据えて考えようとしているように見える。子供が「犬」という言葉を覚えるとき、様々な犬を見てそれらが「犬」というカテゴリーに属するものだということを覚えていくように、人間の認識方法は基本的にはパターン認識であり、文章の認識もパターン認識が発展したものであるととらえようとしているのではないだろうか。 文章の意味を確定しようとする試みの別のアプローチである生成文法と比較すると「認知文法」の方向性がはっきりする。生成文法では、意味の問題は、文の構造に依存しており、文の文法的なチェックと単語の辞書的な意味で文の意味が確定すると考えているように見える。 これと反対に「認知文法」では、語のシンボルが自立的にお互いに相互作用を行い、その相互作用のポテンシャルが最小になるところが文の意味として確定するという考え方であるように見える。 生成文法の最も成功した例は、コンピュータのプログラミング言語であるのは明らかだ。しかし、自然言語に関しては、生成文法をそのまま当てはめるのは困難なような気がする。 「認知文法」の場合は逆に魅力的な理論ではあるが、その理論を用いて自然言語の意味を確定する明白なアルゴリズムがない。おそらく、認知文法の方法が自然言語の解析に利用できるためには、パターン認識を基本的な動作とした並列動作の新しいタイプのコンピュータが必要になるだろう。 言語を認識するという脳のメカニズムが、生成文法の方法をとっているのか、あるいは認知文法が主張するようなパターン認識によって行われているのかはこれからの科学やコンピュータ技術の発展で明らかになっていくことだろう。 ただ、認知文法に現れるいろいろなアイディアには、コンピュータではない生身の人間の考え方の癖やその思考法をどうやったら高められるかということについて示唆するものが多々あるような気がする。認知文法についてもう少し良く理解できたらそういうものを拾い上げることができるかもしれない。
by tnomura9
| 2009-06-08 05:42
| 考えるということ
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