個々の事例から共通の性質を抽出したものが概念だが、この概念は階層構造をしている。たとえば、「柴犬」、「チワワ」という事例から抽象して「犬」という概念ができるが、この「犬」という概念と、「猫」という概念から抽象して「動物」という概念を作ることができる。このような概念の階層構造は「概念のはしご」と呼ばれることがある。
さまざまな事例から抽象することによって概念の梯子のネットワークができるが、そのネットワークの全体に注目すると、ソシュールの述べた「ラング」というものになる。しかし、このような抽象的な全体を問題にしなくても、日常的な文章も、この概念のはしごを登ったり下ったりして表現されているのだ。 たとえば、「環境車向け新素材開発」という見出しの今日の日経新聞の記事の一部を見てみよう。 富士電機ホールディングス、昭和電工など、重電、石油化学、電機メーカがハイブリッド車など環境対応車向け新素材の開発を本格化する。環境車の低価格化や性能向上につながる新素材を開発し、成長が見込める環境車市場に参入する狙い。環境車の性能を引き上げる半導体や電池の開発が進めば、世界の環境車市場でも日本メーカーの競争力が増すことになる。 富士電機ホールディングス、昭和電工は具体的な企業の事例だ、これらは、重電、石油化学、電機メーカとして概念化されているので、これらの企業以外の同種の企業が含まれることを示唆している。また、ハイブリッド車も事例だが、これも環境対応車として概念化されている。概念化されているということは環境対象車はほかにもあるわけで、電気自動車や、高効率のエンジン車、バイオ燃料車なども含まれるだろう。これらの企業が環境対応車に対応する新素材を開発すると言っているが、新素材というのは抽象度の高い言葉なので、さまざまな事例を含んでおり、これだけでは、事例を特定することができない。記事の後半を読むと、それが、半導体や電池のことであることが分かる。 このように、普通の文章を読んでいても、視点が概念の梯子を頻繁に上り下りしていることが分かる。 大規模なソフトウェアは膨大な数の小さなプログラムを集めて作られた巨大なシステムだが、これもモジュールに分けることができる。さらにそのモジュールは下位のモジュールにというふうにモジュールの梯子があり、その梯子のどの部分に注目しているかを「粒度」という用語で表現している。このシステムを理解するときもやはり、概念の梯子を頻繁に上り下りすることになる。 事例の抽象としての概念。概念の具体例としての事例。この2方向の動きを組み合わせることで知識の理解や伝達が進められることになる。抽象的な思考といってもこの概念の梯子を行ったり来たりしているだけなのではないだろうか。
by tnomura9
| 2009-04-20 08:03
| 考えるということ
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