脳のシミュレーション能力がいかにすごいかは、ひとが泳いでいる様子を見ればわかる。
プールでひとが泳いでいるところを見たとしよう。網膜に映るのはその情景をレンズを通して2次元的な画像に変換したものだ。脳は、それを再び頭の中で3次元的な画像に組み立て、泳いでいる人やその周囲の水の質感さえも瞬時に分析してしまう。 これは、水というものがどういう動きをするかのシミュレーションが頭の中にあり、それを今見ている画像と瞬時に比較してそれが水であると判断しているからではないか。さらに、泳いでいる人が作る波紋がどのように広がっていくかも予測している気がする。CGで作られた水の動きをなかなか実際の水と受け入れることができないのは、脳がそれを判断できるからだ。 これは、単に過去の記憶の断片をつなぎ合わせただけではない気がする。たとえば、シャワーを浴びているところを想像すると、水のしぶきや、流れ落ちる水滴の様子まで想像することができる。その水滴の動きは、たしかに水のもので、油のそれではない。 さらに、脳は架空のイメージを作ってそれを操作することもできる。三角形の内角の和が180度であることを証明するときに、頭の中でいろいろな形の三角形を作って検討することができるのだ。 線形システムの畳み込み y(i) = ∑ h(i) x(i - j) を理解するのにもアニメーションを作ると分かりやすい。 インパルス応答 h(i) の形は教科書では右のほうに高さが減っていく懸垂線のようなもので表されることが多い。これは、オシロスコープの出力をまねたものだ。しかし、畳み込みの意味を考えるのには、この形を左右反転させて、波頭のようなものにしたほうが分かりやすくなる。 一つのインパルス入力に対して、この波頭が原点から右のほうへ発射されていく様子をイメージするのだ。x(0), x(1), ... と入力されるたびに次々に波頭が発射されていく。線形システムなので、実際には、波頭は加算されて形が変わるのだが、思考実験では x(i) にたいする単一のインパルス応答が発射されていく様子をイメージすることができる。そこで、x(m) の時の原点の様子を調べてみるのだ。原点で出力されるのは、h(0)x(m) はもちろんだが、x(m-1) に発射された波頭の影響である、h(1)x(m-1) も x(m-2) の時の、h(2)x(m-2) ... も原点で観測されるはずだ。結局、t = m の時の x(m) に対する応答 y(m) は、 y(m) = h(0)x(m) + h(1)x(m-1) + .... + h(n)x(m-n) であるということが納得できる。このような物理的なシステムに脳内シミュレーションを利用できるというのは、脳のシミュレーション能力が優れていることのあかしだ。学校教育では取り上げられることの少ない脳のイメージ操作の技術についてその開発法をどうしたらよいかというのは検討に値する気がする。
by tnomura9
| 2009-04-04 07:21
| 考えるということ
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