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昔々ある所に

おとぎ話は、なぜ「昔々あるところに」で始まるのだろうか。

単なる推測だが、「昔々あるところに」という言葉によって物語の背景として文脈情報を与えることによって、エピソード記憶にスイッチを入れているのではないだろうか。エピソード記憶と意味記憶との違いは、記憶の内容が文脈に関係しているかそうでないかということだ。小説は読みやすいが、技術所は読みにくいと感じるのは、前者がエピソード記憶を作りやすいのに対し、後者は意味記憶として記憶されるからなのではないだろうか。

Vargha-Khademらは順行性健忘のため少し前に聞いた話を覚えているのが困難なのにもかかわらず、言葉を覚えて話すことができ、学校に通って授業を受けて平均的な成績だった症例を報告している。つまり、エピソード記憶が障害されているにもかかわらず、意味記憶の獲得は正常だった。また、これらの症例では海馬が選択的に障害されていた(『シリーズ脳科学 認識と行動の脳科学』より)。彼らは、意味記憶の情報はまず海馬周辺皮質、海馬傍回、嗅内皮質で処理され、その一部の情報が海馬に入って処理されるという仮説をたてている。

順序からいったら、意味記憶の形成が先で、エピソード記憶の形成は後になるので、想起も意味記憶のほうが楽のような気がするが、実際には小説の内容はよく覚えているのに、参考書の内容はなかなか覚えられない。おそらく、エピソード記憶では意味記憶を文脈情報と関連付けることによって順序よく想起ができるようにしているのではないだろうか。記憶の効率は記憶痕跡の獲得より想起の効率に影響されるのだろう。

昔話も冒頭部分を述べることによって、聞き手にエピソード記憶のスイッチを入れさせて無意識のうちに記憶や理解の力を高めているのかもしれない。

参考書を読むときも「昔々ある所に」と唱えてから読むようにするとよく覚えることができるようになるだろうか。
by tnomura9 | 2009-02-20 06:44 | 考えるということ | Comments(0)
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