この頃『シリーズ脳科学』(東大出版会 甘利俊一 監修)をぼちぼち読んでいる。一気に読みとおせるような内容ではないので、あちこち気分に任せて散策している状態だが、面白い。現実の脳科学の最先端はSF小説のようだ。メディアに取り上げられているのは、そのなかのほんの一部分でしかない。
たとえば、記憶にしても様々な種類があり、それが、それぞれ脳の違う場所で処理されている。海馬で処理される短期記憶と、大脳皮質に蓄えられる長期記憶の違いくらいは誰でも聞いたことがあるだろう。しかし、長期記憶も、「宣言的記憶」と「非宣言的記憶」に分けられるし、宣言的記憶の中でも「意味記憶」と「エピソード記憶」は異なる場所で処理されている。 昔の記憶は保たれているが、最近の記憶を長期記憶に転換できなくなった両側の海馬に障害のある有名な症例のおかげで、記憶の獲得に海馬が必要であることは広く知られている。だが、海馬には様々な種類の感覚を統合したり、それらのパターンの補完をしたり、あるいは差を検出したりなどの認知的な機能も持っている。何かを見たときそれが見たことのないものだという感覚を持つことがあるが、それは海馬の前のほうで処理されており、エピソード記憶的などこでそれを知っていたかという記憶を検索するのは、海馬の後ろのほうで処理されている。 最近、記憶は夜に固定されるといわれているが根拠は心理学的な実験くらいしかなかった。しかし、海馬の神経細胞の発火パターンを記録していると、睡眠時に昼間の実験の時の発火パターンと同じパターンが再現されていて、記憶が寝ている間に皮質に送られているのだなというのがよく分かる。 また、海馬に場所に反応する神経細胞があることは聞いていたが、それらの複数の神経細胞の発火パターンを同時に検出すると数cmの誤差で実験動物の行動が予測できるらしい。 いろいろな種類の記憶が、実際の脳の活動と結び付けられて、どうやったら効果的に利用できるかが科学的に解明される時代がやってくるのかもしれない。そうなると、驚異的な記憶を獲得する秘密の方法というものもなくなって味気なくなるかもしれない。もっとも、忘れることのない記憶を持つと様々な精神障害が発生する可能性が出てくるし、音楽の練習をしすぎて指を支配する脳の領域が隣の指と重なるまで広がった人は、指の痛みで演奏ができなくなるというし、ほどほどのほうがいい場合もあるのかもしれない。
by tnomura9
| 2009-02-19 07:19
| 考えるということ
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