参考書を読んでもすぐに内容を忘れてしまうので、読み返した時に内容を思い出しやすくするマーキングをいろいろ工夫してみたが、次の4種類のマーキングを使うといいようだ。最近は本を読むときにこの4種類のマーキングでやっているが、鉛筆がないと読めないくらい依存するようになってきた。
4種類のマーキングとは次のようなものだ。 1.主語の下に終端に矢頭のある下線を引く。 ------------ > のような感じになる。 2.述部の重要な語句には波線の下線を引く。 ブログでは表示しづらいが、vvvvvvvv のような線だ。 3.接続詞を丸で囲む。 4.列記された項目は角括弧でかこむ。 実際の用例は次のようになる。『脳の発生と発達』 甘利俊一監修 岡本仁編 東大出版会から引用した。活字で表現する制約から、主語は下線で、述部の重要キーワードは太字で、接続詞は赤で、列記された項目は角括弧で表現している。 最近になって、細胞内で微小管の重合・崩壊を制御するチューブリン結合タンパク質が次々と報告されている。たとえばCRMPは、単量体チューブリンと複合体を形成して重合能を高める(Charrier et al. 2003)。一方スタスミン(stathmin)/SCG10は、単量体チューブリンと複合体を形成することで重合能を奪い、間接的に微小管の崩壊を促進する(Grenningloh et al., 2004)。さらには、伸長する微小管先端のみに特異的に集積する分子群として、[CLIP170], [MAST/Orbit], [ダイニン(dynin)], [EB1], [APC]等の微小管プラス端集積因子(+TIP)が発見されている(Garvalho et al,. 2003; Akhnamova & Hoogenraad, 2005)。これらは、新たな単量体チューブリンの重合と同時に微小管プラス端に結合し数秒後に解離するため、伸長する微小管の先端のみに局在する。微小管プラス端集積因子は、多くの場合微小管を安定化する作用を持つと考えられる。 上の文章は細胞骨格のひとつ微小管がどういう風に先端を伸ばしていくかを説明したものだ。微小管は細胞の骨格をなす管状のたんぱく質だが、それらは単量体チューブリンという粒状のタンパク質が丸い管を構成するように積み重なって結合して(重合して)いくことで長さを伸ばしていく。微小管の伸びる方向には極性があり、単量体チューブリンは微小管のプラス端にくっつく形で重合されていくので、微小管はプラス端のほうへ伸びていく。 上の文章を読み返すとき、接続詞のみを眺めていくと、「最近になって」 -> 「たとえば」 -> 「一方」 -> 「さらには」 -> 「これらは」 と文章が進められているので、これをざっと見るだけで、「この文章では微小管の伸長についての最近の報告がのべられ、その例をひとつあげ、それ例とは反対の作用の例をあげ、それらとはまた別の例をあげ、最後の例についての詳しい説明があるな。」と、文章の構成を大まかに予測できる。 次に主語だけを拾い読みすると、「微小管の重合・崩壊を制御するチューブリン結合タンパク質が」 -> 「CRMPは」 -> 「スタスミンは」 -> 「微小管プラス集積因子は」 というふうに展開しているので。この文章が「微小管の重合・崩壊を制御するチューブリン結合タンパク質についてのべてあり、そのなかで、CRMPは単量体チューブリンの重合能を高め、逆にスタスミンは微小管の崩壊を促進する。また、微小管プラス端集積因子は、微小管のプラス端のみにみられ、微小管を安定化する作用を持つ。」ということを読み取ることができる。 主語のマーキングをするときには、助詞まで下線を引いて、それが主語であると分かるようにしておくと便利だ。また、下線の終端に矢頭をいれておくと、この語をきっかけに内容を想起するのだという信号になって、あとで読み返すときに矢頭が現れたら、そこで立ち止まって内容を想起するとよい。 読み返した時に文章の内容を思い出すためには、このように、主語だけを読んでいけは十分だが、述部の重要だと思われた個所をマーキングすることも有益だ。この際、混乱を避けるために、マーキングする下線を波線にすることによって、その箇所が述部に現れたということを明示しておいたほうがいい。 また、上の例で、微小管プラス端集積因子の個々の因子の名称は、各括弧で囲んだが、このように同じ集合に属する要素を列挙したような箇所では、角括弧で囲むことでそれがひとまとまりを形成しているのだということを浮き立たせることができる。 技術系の文書は、文体のバリエーションがあまりないので、上に述べたような4種類のマーキングでも十分読み返した時の内容の想起が簡単になる。上のマーキングでは、キーワードのマーキングがないので、索引的にキーワードを拾い上げるのには不便だ。このマーキングの意図は、あくまでも、文章の構成を明らかにすることによって、内容の想起を容易にするという目的のものだからだ。 文章の主語にマーキングをするというのは、あまりやられていない方法のように思うが、文は基本的には主語と述語の骨格に修飾語をつけることによって詳しく述べるという形式になっているので、主語と述語を意識するというのは、自動的に文の要約を作成していることになる。また、接続詞は、その文章の議論の進め方を明示するものだから、文章の構成を概観するのに、これを使わないという法はない。 理系の文章を読むときに、文法を活用したり、接続詞に注目したりすることはあまりないが、上のような例を見ると、このような文系の技術が思いのほか理系の文章を読解するのに重要だったりするのがわかる。
by tnomura9
| 2009-02-08 13:30
| 考えるということ
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