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助詞を活用する

重要なキーワードに下線を引くときは、きっちりキーワードだけに引くのが普通だろう。しかし、キーワードから少しはみ出して助詞まで引いておくと後で読み返すときに楽だ。

わたし」というふうにキーワードだけに下線を引くと、キーワードの文脈での位置がはっきりせず、漠然とした印象になる。ところが、下線を助詞にまで延ばして「わたしが」とか「わたしに」というように引くとキーワード「わたし」の文脈での位置づけまで分かるので、「わたしがどうしたのだろう?」、「わたしになにをしてほしいのだろう?」などと自然にその先への質問が湧いてくる。

つぎの例文は『自営業再考』 国民金融公庫総合研究所編からとった。

 雇用をめぐる環境は大きく変化した。雇用問題というと失業給付や再雇用促進などに目が向きがちであるが、もう少し視野を広げてみてはどうだろうか。既存の企業に頼らず、自らの就業機会を確保する自己雇用者の存在自体を評価すべき時期に来ているのである。
 事業の成長性や収益力といった評価軸でみると、彼らは必ずしも高く評価されないかもしれない。しかしそれは、いくつもある価値観の一つでしかない。自立して継続的に事業を営んでいる以上、成長性や収益性が必ずしも他と比べて高くないことだけをみて存在意義を否定するのは一面的な判断といえよう。
 見方を変え就業形態の選択肢の一つとして考えてみると、自己雇用者の中に新たな働き方の可能性を感じる人は多いはずである。彼らの存在が、今後のわが国経済に大きなインパクトを与える可能性は十分にあるのではないだろうか。

この文章で筆者は、自己雇用が成長性と収益性に劣るものの、他方で自己雇用者にそれを補って余りある利益をもたらし、さらに、雇用問題を考える上で国の経済全体にも大きな影響をもつ可能性があると主張している。

上の例で分かるように、「雇用問題というと」と助詞まで下線があったほうが、「雇用問題」とキーワードだけに下線を引いたときよりも、「雇用問題について今までは何が取り上げられていたのだろうか?」というような疑問が自然にわいてくるので、後の記事を読む心の準備ができる。助詞によってキーワードの文脈での位置の手がかりを得ることができるので、連想の方向性がわかりやすくなるからだ。

話は変わるが、上の例文で接続語の後に > を挿入してみた。接続語をすべて丸で囲ってしまうと読み返した時の印象が強すぎる気がしたからだ。接続語自体は論理の流れを表示するのみであまり強い意味は持たないので後ろに > を挿入するだけにしてみた。

文章の論理構造を見るのに接続詞、接続語は重要だ。これらに関しては何らかの形のマーキングが必須だ。文章を理解するときに、議論の論理構造が分かっていると理解しやすいと感じるからだ。

このように、キーワードに下線を引くときは、少し伸ばして助詞まで引いたほうが読み返すときに楽になるようだ。
by tnomura9 | 2009-01-18 12:42 | 考えるということ | Comments(4)
Commented by ゆうき at 2011-09-01 07:58 x
はじめまして!
とても参考になるブログですね^^
勉強させてもらってます。
あのちょっと質問なんですが、
見方を変え>の部分はなぜ接続語に入るんでしょうか?

また、文章を読むときに名詞、動詞・・・・・・その他、などあるとおもいますが、主的には、どれが1番文章を理解するときに重要だとおもいますか?
Commented by tnomura9 at 2011-09-01 12:25
ゆうきさん、コメントありがとうございました。

見方を変えというのは、文法的には接続語ではないですね。しかし、前後の文章の論理的な関係を示唆しているという意味では、機能的には接続語の働きをしていると思います。

また、文章を読むときにはその骨格を把握するのが最も大切なので、品詞の分析よりは、機能的な主語と述語を見つけることが重要だと思います。主語と述語は命題(真偽を判定できる文)の基本的な構成要素で、この両者の関係で文の真偽を定めることができます。

文学作品と異なり、論理的な文章の場合は、何かの主張の論理的正当性を主張するわけですから、主語と述語の間にどのような関係があるかということを把握するのが最も肝要なことだと思います。
Commented by ゆうき at 2011-09-01 14:54 x
お返事ありがとうございます^^
すごいですね。
そこまで自分は発見できなかったし、気付きませんでした。
主さんはその知識(読解)は何かの本で見つけたんですか?
何かそういう知識(読解)を深めるオススメの本などであれば勉強したいのでぜひ教えていただきたいです。
Commented by tnomura9 at 2011-09-01 18:30
ゆうきさん、コメントありがとうございました。

読解にも種類があり、試験問題に解答するための読解か、仕事の情報を得るための読解かなど、読解の目的によって性質が変わってきます。

したがって、資料の読解を問題にする場合には、読解する内容をそのものよりも、自分がその資料をどう理解するのかという読者の主体性のほうが重要になります。つまり、どうすれば自分は分かったと感じることができるのかという、自分の理解の仕方の癖を知っていることが大事です。

そういう、自分が理解するということはどういうことかということに気づかせてくれる本に、講談社ブルーバックスの『「わかりやすい表現」の技術』藤沢晃治著があります。

この本は、分かりやすい表現をするための要件について述べた本ですが、同時に、自分がどのような考え方をすれば分かったと感じられるようになるかということにも気づかせてくれます。

一読をおすすめします。
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