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定義と詳細のスキーマ

技術関係の文章は、最初に用語の定義を述べ、そのあとにその用語に関連する詳細を記述していることが多い。これを「定義と詳細のスキーマ」としていろいろな文献に適用すると読解が楽になる。

ちょっと長いが、『ダイナミックに新展開する脂質研究』 清水孝雄、新井洋由編 羊土社 の 『リゾリン脂質メディエータの産生機構』 青木淳賢、後藤牧子著 から引用する。文中の下線や、太字、カッコ数字は管理人が挿入したものだ。

はじめに
 リン脂質(ジアシルリン脂質)の2本のアシル基のうち一本を失ったものをD)リゾリン酸という。1)通常のジアシルリン酸は2本の脂肪酸に起因する強い疎水結合のために、特定のタンパク質の介助なしでは生体膜から容易に離れることができない。しかし、2)アシル基を1本しか持たないリゾリン脂質は容易に膜から離れ、ほかの膜へと移行することができる。したがってリゾリン脂質は細胞間(あるいは膜間)のシグナル伝達分子として機能しうる。一方、2)リゾリン脂質はその物理化学的性質から生体内膜に容易に突き刺さり、特に高濃度で界面活性作用による細胞膜障害作用を示す。そのため、古くからリゾリン脂質は細胞レベルでさまざまな細胞応答を引き起こすことが知られていたが、その作用は一部を除き特異性がないものと考えられ、あまり注目されていなかった。
 3)生体内には多くのリゾリン脂質が存在する(表1)。哺乳動物の血液中には約数100μMという高濃度のリゾフォスファチジルコリン(LPC)が存在する。また、さまざまな細胞内にはLPCやリゾフォスファチジルエタノールアミン(LPE)が容易に検出される(全脂質の数%程度)。しかし、これら比較的多量に存在するリゾリン脂質の意義は解明されていない。一方、4)生体内での存在量は少ないが、きわめて明確かつ強力な作用を示すリゾリン脂質群がある。スフィンゴシン1リン酸(SIP)、リゾフォスファチジン酸(LPA)、リゾフォスファチジルセリン(LPS)などである。また、5)化学構造的にはリゾリン脂質ではないが、リゾリン脂質様の構造をもつ血小板活性化因子(PAF)、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、も強い生物活性を示す。6)これらのリゾリン脂質(SIP, LPA, LPS, PAF, 2-AG)は生体内に微量に存在するか、ほとんど検出されないが、必要時に産生され作用を発揮し、速やかに消去されるものと考えられ、リゾリン脂質性のメディエーターと呼ばれている。7)これらのリゾリン脂質性メディエーターはその作用が細胞膜の特異的受容体(Gタンパク質共役型受容体:GPCR)を介することが明らかにされている。最近、8)これらのGPCRのうちのいくつかに関してノックアウトマウスが作製され、これらのリゾリン脂質が個体レベルで重要な役割を持つことが明らかにされている。9)GPCRは創薬の格好のターゲットでありこれらのリゾリン脂質は近年特に注目を集めている。10)これはメタボライト一般に当てはまることであるが、脂質は遺伝子によって直接コードされないしたがって、11)リゾリン脂質メディエーターの生体内機能は、受容体や産生酵素を明らかにし、その発現、遺伝子改変動物などの解析を介して研究することになる。12)本稿ではPAFや2-AGも含めリゾリン脂質性メディエータの産生機構を概説する。

本文の最初に「リゾリン脂質」というキーワードに下線を引きその先頭にD)という記号を挿入してこのあたりにキーワードの定義が書かれていることを示している。つまり、「リゾリン脂質」とはリン脂質の2本のアシル基のうち一本を失ったものだ。この部分が「定義と詳細のスキーマ」の定義の部分にあたる。

後の部分は、このように定義された「リゾリン脂質」の性質についての詳細の記述になっている。その内容は、

1)この物質が比較的生体膜から遊離しやすくシグナル伝達分子として機能しうる。
2)しかし(一方という接続詞でこの物質があまり注目されていなかったことが分かる)、この物質がリゾリン脂質は非特異的に細胞膜を傷害するため特異的な生理作用はないと考えられていた。
3)生体内で多く存在するが(しかし)生理活性の不明なリゾリン脂質がある一方で(一方という接続詞で分かる)、4)少量しか存在しないが明確な生理作用のあるリゾリン脂質がある。
5)(また)化学構造は違うが作用的にリゾリン脂質と非常に似た物質がある。
6)これらは(これらのという指示後はその直前に述べた用語について詳しく説明する場合に使われるのでここで記述の内容が変わることが分かる)、非常に短時間作用し消失するのでリゾリン脂質性のメディエータと呼ばれている。
7)これらのリゾリン脂質メディエーターの受容体はGタンパク質共役型である。(これらのという指示後が出ると別の内容をのべていることをが推察される。)
8)これらのGPCRのノックアウトマウスが作成され生理作用が確認された。(このばあいの「これら」はGPCRをさす。)
9)GPCRは創薬のターゲットである。
10)(GPCRのリガンドである)メタボライトは遺伝子でコードされない。
11)したがって(したがってという接続詞で論理的結論を示す)、リゾリン脂質の生理作用は受容体や産生酵素を操作して調べることになる。

このように、リゾリン脂質の定義のあと、詳細が述べられるが、多くは分量が多くなるのでひとまとまりごとに連番を打っていくとよい。参考書に書き込むときは行間の空白にカッコつき数字を書き込む。

その際に、内容の区切りについては、指示後や接続後が重要な手掛かりとなる。これらの指示後や接続後を丸で囲んでおくと読み返すときに、詳細部分の論理的な構造が分かりやすいので便利だ。

とくに重要な部分には下線をひく。上の例でも分かるように内容の区切りと下線の位置は必ずしも一致しない。

上の例文のような文章の場合、最初にキーワードの定義を発見し、その後の詳細の記述ををその定義に照らしながら読んでいくと理解が楽になることが分かる。何について書いてあるのかという焦点を見失わないですむからだ。このような記述の形式を「定義と詳細のスキーマ」として特定しておくと便利だ。
by tnomura9 | 2009-01-12 08:22 | 考えるということ | Comments(0)
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