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わかりやすさの秘密

管理人が、楽しみにしているブログの一つに「タイム・コンサルタントの日誌から」というのがある。管理人の職種とは違うが、議論の進め方が面白くてわかりやすいので、専門的なことはわからないが時々読んでいる。今度読んだ「生産システムの性能を測る」という記事もとても面白かった。

そこで、何でこの文章が面白かったのかを考えてみた。

まず、議論の進め方について考えた。著者は冒頭で、製造業における生産活動をささえる仕組み全体を、『生産システム』と命名し、『生産システム』の機能を、「需要情報というインプットを、製品というモノ(あるいは製品に実現された付加価値)に変換してアウトプットする」ことと定義している。

次に生産システムの中心には「人間系」があり、これが、機械的なシステムと質的にちがうところで、マネジメントの中心的な対象であると主張する。

さらに、マネジメントの目的は外部環境の違いによって変化することが主張される。

外部環境の変化が少なく、システムが一応のアウトプットを保っているときは、マネジメントの目的はシステムの安定維持のみになる。そこでは、前例と慣習のみが重視され、官僚的な硬直したシステムになる。このようなシステムは、『ピーターの法則』 -- 組織の昇進のシステムから、管理職はその担当者がその職で能力を発揮できなくなった時にその位置にとどまる。したがって、次第に管理職はその位置では能力の発揮できない人材で埋まり、組織は次第に機能不全に陥っていくという法則 --- から、必然的に機能不全に陥ってくる。

外部環境が変化するときは、このような硬直的なシステムでは対応できなくなる。日本の製造業の直面した問題がまさにこのような外部環境の変化にシステムが対応できないという事態だった。そうして、この問題を解決するのが難しかったのは、企業がシステムの性能を図る尺度を持ち合わせていなかったからだと述べる。

それでは、変化に対応できるシステムを構築するための尺度をどうやって作ることができるかという疑問がでてくる。それにたいしては、著者はそれは、『抽象化』と『類推』という道具が必要だと言う。

『抽象化』という観点から、生産システムは「有効性」と「効率性」と「頑健性」の三つの観点から評価される。また自動車のしくみを例にとる『類推』から「有効性」とは思った方向にはしれるかどうかということ、「効率性」とはいかに燃費良くはしれるかということ、「頑健性」とはすぐに揺れたり壊れたりしないことと説明する。

そのあとは、個別に『有効性』、『効率性』、『頑健性』についての検討がなされている。その中でも、とくに、システムの『頑健性』とは生産に従事する人間が安定して働いていることであると主張される。「労働者」と十把一絡げにされる人間達が、安心して快く働き続けられなかったら、生産システムなどすぐにバラバラになる。職場の『頑健性』はその職場の事故率や離職率の逆数で測られねばならないのだ。

最後に、この『頑健性』は『有効性』や、『効率性』とはトレードオフの関係にあり、現代の”モダンな管理思想”からは軽視されやすいが、生産システムの鼎の足を形成している重要な要件であり、これをきちんとマネジメントしていかなければ健全なシステムの管理はできないと締めくくっている。

著者の主張は納得できると思うが、ここに引用したのはその議論の進め方が、よく構造化されているのが面白かったからだ。

たとえば、最初に自分が何について議論をしたいのかをのべ、必要な用語に明確な定義を与えている。次に、その論点についてどういう問題が発生しており、どういう経緯でそれが障害となってきたのか、どうすればその障害を克服できるのかを分析する。

必然的に、その解決法についての議論が続くが、どういう道具立てでその議論を進めるか、つまり、抽象化と類推という道具を使うことを最初に明記してある。したがって、次の議論がどういう発想のもとで組み立てられていくかを予想しやすくなる。

それから、ここの解決法の議論に進んでいくが、ここでも、用語の定義とその具体例を提示し、その用語によって著者が何を言いたいのかを明確にする工夫がなされている。「有効性」、「効率性」、「頑健性」についての考察も、最初に目録的に何について述べるか、何個の要素についてのべるかを提示したあと、個々の考察がなされている。

そうして最後にシステムの「頑健性」が今までのマネジメントで欠落しており、そのためにシステムの有効な運営ができなくなっているという主張でまとめてある。

これらの議論の進め方についての著者の工夫をまとめると、「議論の対象を明確にする。」、「用語に対しはっきりした定義をしてその用途を限定する。」、「議論の構造を最初の段階で示しておく。」、「抽象化と具体例のバランスをとった記述をする。」、「論理的な整合性を意識した順序に記述する。」、「議論の空間的な配置が見えるように記述する。」などになるだろう。

いずれにしても、わかりやすいとかんじる文章にはこれだけの工夫と労力がこめられているのだ。
by tnomura9 | 2008-10-28 07:27 | 考えるということ | Comments(0)
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