脳科学関係の啓蒙書を読むと、よくみかけるのがタクシー運転手の脳の海馬の部分が普通の人より大きく、その傾向は運転手としての経験が長いほど強いという、ロンドン大学のMaguire博士の研究だ。
ところが、この研究は2003年のイグ・ノーベル賞を受賞しているらしく「タクシー 海馬」で検索するとそっちの方の話題の方が多くひっかかってくる。 しかし、日本語版のGoogleでは一次資料の原著が検索できなかったので、英語版のGoogleで、 taxi hyppocampus で検索したら『PNAS』に投稿された、 Navigation-related structural change in the hippocampi of taxi drivers という原著がGoogleの1ページ目に検索されてきた。図表だけをチラッと見たが、MRIの画像から体積を計算したら、16名のタクシー運転手の海馬の中央部と後部は普通の人より大きく、海馬の前部は逆に小さくなっていた。また、海馬後部の体積は運転手歴が長いほど大きく、海馬前部では逆に小さくなる傾向がみられた。 統計的に有意差が出ていたので、一応上のような結論は正当化されるが、かなりばらつきが多い様に感じられた。また、標本数もあまり多くはない。 この論文が脚光を浴びたのは、おそらく、成人の脳の神経細胞が増殖する可能性を始めて示したためではないだろうか。タクシードライバーが空間認知に関して訓練されているのではないかというアイディアと、海馬という脳の中でも小さく焦点を当てやすい部分を選んだのが効を奏したのだろう。最近では脳にも幹細胞があり、成人の脳でも神経細胞は増殖することができると考えられている。 イグ・ノーベル賞をとったのは、この研究が「ロンドンのタクシー運転手の脳は、他の一般市民と比べて高度に発達していることの証拠を提示したことに対して。」とされており、この論文の主旨よりもその結果を見て騒ぎ立てたマスコミの騒動に起因している。 海馬の話題はともかくとして、このエントリーで言いたかったのは、情報の意味を判断する上での一次資料を得ることの大切さと、意外に簡単に一次資料をネットで手に入れることができるようになったなということだ。しかし、これに関しては、日本語の検索はまだまだの様な気がする。 一次資料を有料で取り寄せてくれるサイトはあるが、一次資料のオープンソース化が進めばその利益は計り知れないだろう。英語版のWikipediaの記事はかなり信頼性が高いように見える。また、一次資料へのリンクも豊富だ。日本語版のWikipediaも同じくらい中身が濃くなると便利だと思う。 Googleのおかげで、インターネットの情報が「第二の脳」と言えるくらいに、使い勝手が良くなってきている。インターネットのオープンソース化が進んでいけば、良質の情報に個人が簡単にアクセスすることができるようになり、人類の英知を集約した膨大な容量の第2の脳を個々人が手にすることができるようになるのではないだろうか。 インターネットの一次資料にアクセスする方法を解説した本がないかと探してみたが、本屋では見つけることが出来なかった。情報のリテラシーを高めるために必須の技術となるはずなのでそういう本があるとうれしい。
by tnomura9
| 2008-07-26 03:16
| 考えるということ
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