過飽和の溶液には物質が飽和度を越えて溶媒に溶けている。例えば高温の溶液に溶質を溶けるだけ溶かしておいてゆっくりと冷やすと、冷えた温度での飽和度より多くの物質を溶かした状態にしておくことができる.しかしこの様な場合振動などのちょっとした刺激で飽和度を越えた分の溶質は析出してくる。また、小さい結晶のかけらを過飽和の溶液に漬けると、そのまわりに溶質が析出して大きな幾何学的な結晶を作ることができる。
参考書を乱読していくと、これに似た状態が起きるのを経験することがある。個々の文章は理解できるが何となくすっきりしなかったのが、その中のある一つの項目に注目した途端に今までの知識がそれを中心に関連付けられて、見通しが格段によくなる感覚だ。 例えば、肺炎の勉強をしていたとしよう。肺炎を起こす病原体には様々なものがあり、その症状も様々だ、しかし肺炎ということで共通する症状も多く区別がつきにくいことも多い。また、肺炎に関連する知識は、細菌の生化学や抗生物質に対する耐性についての知識や、肺の解剖学や、X線写真やCTの読影法など多岐にわたっている。それらの勉強をしているといろいろな知識が頭の中で渦巻いて肺炎というものがどういうものかというのが今ひとつ掴めたという気がしない状態が続いていた。 ところがある日、肺炎の歴史を読んでいて昔の肺炎のほとんどが肺炎球菌だったという記述を読んだとき、肺炎球菌というキーワードを中心として、急に肺炎の様々な特徴がはっきりと見えてきた。 つまり、肺炎で肺炎球菌がもっとも重視されるのは、その頻度と重症度が他の菌に比べて格段に大きいこと。抗生物質はこの菌に大して目をみはる効果を示したが、次第に耐性ができてきたこと。抗生物質に対する耐性化が進むとともに、肺炎球菌以外の菌による肺炎が無視できなくなってきたこと。肺炎球菌はサイズが小さく気流にのって肺胞にまで至って炎症を引き起こすが、マイコプラズマのような気管支の繊毛細胞に感染するものはもう少し中枢側で炎症が起きること。誤嚥性肺炎の様な大きな粒子が感染に関与するものは炎症の分布に重力が関係すること。これらの特徴はX線写真やCTの画像に現れること、等々。 いままでの漠然とした知識が、肺炎球菌というキーワードの周囲に一気に結晶化していく感じだった。 結構勉強したのにもう一つ自信が持てないという場合は、何かのキーワードを選んで、そのキーワードを中心に考えて見るというのもいいかもしれない。ただし、そのためにはかなりの量の多読乱読は必要条件だ。
by tnomura9
| 2008-07-22 01:35
| 考えるということ
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