技術関係の仕事をしたものは、参考書的な知識がどれほど危険かをよく知っている。技術というものはある程度以上の専門的な知識と経験がないと役に立たないどころか、危険な事態を引き起こしてしまう。徒弟制度で訓練されるのは、先輩の経験に寄生することによってその危険を回避しているからだ。
新しい知識も、あれもこれもと欲を出しすぎると、百科事典的なジャンク知識の集合となってしまう。二兎を追うものは一兎も得ない。たとえば、薬の効能や容量、副作用などはネット検索でいくらでも出てくるが、それらの平均化された情報では本当のところは分らず、現場での経験がその薬の真の特徴や注意点を教えてくれるのだ。 ただ、徒弟制度の訓練を受けたものは多かれ少なかれ経験主義に陥ってしまうきらいがある。本に書いてあることが実際に考慮すべき判断のほんの一部であることを知っているがゆえに、参考書の情報を軽視しやすいのだ。 しかしながら、最近の技術革新はそういう経験主義を許さないほど変化が速い。広く浅くの危険を冒しても新しい情報を取り入れる必要が出てきている。経験の重さを認識しつつ、新しい知識をも吸収しなくてはならない二兎を追う状況が発生してきている。 その際に大切なのは、広く浅い知識をどのように経験の枠に取り込んでいくかということだ。知識の斬新さに取り込まれてしまうと危険な事態を招いてしまうかもしれない。参考書を勉強しても金科玉条的に信じ込んでしまうとトラブルが発生するだろう。 新しく習得した自分の知識の底の浅さとそのリスクを知りつつ、経験の枠組みに照らしながら慎重に実践に取り入れていくタフな思考力が必要とされるのだ。
by tnomura9
| 2008-07-11 06:19
| 考えるということ
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