『「分かりやすい説明」の技術』 藤沢晃治著 講談社ブルーバックス は、『「分かりやすい表現」の技術』に続く、「分かりやすい」シリーズの二作目だ。
一作目が、分かりやすい表現をするためには、データの構造が分かるように表示することを強調していたが、二作目のこの本では、その考え方を進めて、「脳内関所」という概念が説明されている。 「脳内関所」というのは、短期記憶のことで、人間がプレゼンテーションを聞いて理解し、長期記憶に残すためには、まず、この短期記憶にその内容が残らなくてはならない。ところが、この短期記憶は、膨大な長期記憶に比べて、容量が非常に小さい。また、長期記憶に結びつけるための前処理のようなことをしているために、情報の受け入れに少し時間がかかる。したがって、一気に情報を与えても、「脳内関所」で受け入れられなかったものは、すべて捨てられてしまう。 したがって、講演する側が、この「脳内関所」に受け入れやすいように情報を与えると、分かりやすい説明になる。 まず、講演を立て続けに話し続けても聞くほうはついていけない。最初はどういう内容を講演で話すのか、概要を簡潔に述べる必要がある。講演全体の内容の構造だけを示すのだ。次に、講演の本体を述べるときも、ブロックに切り分けて、その最初にブロックの要約を述べる。また、要約や、重要なキーワードの概念を述べた後は、聞き手に考える時間を与えるように、少し間をおく。また、ブロックの内容も配列を考え、情報の構造が伝わりやすいようにしておく。 この「脳内関所」というのは、説明を聞き手に分かりやすくするために考えられたアイディアだが、しかし、これはそのまま学習者が能動的に参考書を読むためにも使うことができる。 参考書を読んでも、さっぱり頭に入らないのは、短期記憶の特性を無視して読んでいるからだ。この「脳内関所」の考え方を利用して参考書をよむと次のようになる。 最初に、「前書き」を読んで、著者がどういう目的で本を書いているのかを読み取る。次に、本の全頁をぱらぱらとめくって、図や表や、章立てなどの構造をさっとみる。それから、目次を見る。目次では、まず、章の題名だけを読んで、どういう章の組み立て方をしているのか考える。そこで、気になる章があったら、さらに節の題名も見てみる。目次の題名はキーワードの羅列になっていることが多く分かりにくいので、適度に補って、主語述語からなる短文にしてみると分かりやすい。 こうして、本の構造全体がなんとなく分かったら、本文を読んでいくのだが、そのときも、逐語的に読んでいくのではなく、はじめに、要約を読む。要約の中でも、特にその要約の中心主題となるキーワードをひとつだけ取り出し、それについて少し考えてみる。これだけの前準備をして、本文を読んでいくのだが、本文も最初からくまなく読むというやり方ではなく、主語述語だけを取り出して読み、それに修飾語で肉付けしていくという読み方のほうが頭に入りやすい。 つまり、自分が読む場合でも、プレゼンテーションの場合のように、情報を、構造を意識した分割の仕方をして、少しずつ自分に与えるようにするのだ。 『「分かりやすい説明」の技術』は、明らかに、学習を効果的に速く行う技術のためにも重要な参考書だ。
by tnomura9
| 2007-02-06 07:23
| 考えるということ
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