生命の起源を考えたときに、その原動力となったものは何かというと、それは自己組織化ではないだろうか。自己組織化を直感的に理解するには、ライフゲームを思い出すと良い。個々の粒子の間に相互作用があると、個々の粒子がランダムに活動しているにもかかわらず、全体としては、ある秩序や、パターンが現れてくるのだ。
細胞膜を構成している脂質二重層がいい例だ。親水基と疎水基を持つ脂質を水中に入れると、親水基同士は外側に、疎水基同士は内側に並んで脂質の二重層を自動的に形作っていく。この場合も、個々の脂質分子はランダムに運動しているにもかかわらず、それらの相互作用のために全体としてはきれいに整列した脂質膜を形成するのだ。 生命体の単位としての細胞は細胞膜よりはるかに複雑な組織化が行われているが、自己組織化という観点からは共通の性質がみられる。それは、その構成分子の相互作用のために、個々の分子のランダムな運動が全体としては組織化されていくということだ。 自己組織化は何も生物に見られるだけではない。社会や、国家といったものも国民が自己組織化したものなのだ。これも社会制度や、経済活動や、教育などといった個人と個人の間の相互作用が総体としてまとまりのある国家を形作っている。 安定した国家も、内戦で分裂した国家も基本的には個人の間の相互作用が全体として形作る自己組織化の現われなのだ。したがって、イラクの混乱も単に制度を作ったり、軍隊を投入したりしても収拾できないかもしれない。逆に個人と個人のあいだのミクロの相互作用をかえることで思いもかけない安定を導き出すことができるかもしれないのだ。 企業の運命も似たようなものがあるのではないだろうか。壮大なマクロな経営方針が意外に役に立たず、社員の間の交流の性質を少し変化させることで飛躍的な発展をするということもあるような気がする。企業の再建の名人たちは一様に現場の意見を聞くことが好きである。 自己組織化の難しいところは、要素間の相互作用が非線形であるため、理論的に大域のパターンを予見できないことだ。しかし、年々コンピュータの性能も上がっているし、シミュレーションという手法でそれを解決できるようになるかもしれない。いずれにしても大事なことはシステムの振る舞いを自己組織化という観点から見直してみることなのだ。
by tnomura9
| 2006-09-29 01:53
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