チョムスキーの生成文法の最も重要な特徴は、それが、文法的に正しい文を生成するためのルールであるということだ。文法的に正しいありとあらゆる文を少数のルールで生成することができるのだ。
チョムスキー以前の文法は、書かれた文が文法的に正しいかどうか判断するためのルールだった。文そのものは作成されるまで、文法的に正しいかどうかは分からない。しかし、出来上がった文に対しパターンを分析することでその文が文法的に正しいかどうかを判断した。 それに比べ、生成文法では、そのルールに従っている限りあらゆる文法的に正しい文を生成できるのだ。チョムスキーの仕事がコペルニクス的転換といわれる由縁でもある。 生成文法のそういう力は、文の定義に再帰的定義を導入したために生じた。再帰的定義とはどのようなものかを説明するのは難しいが、少しプログラミングを勉強すれば、階乗を計算するプログラムなどで、再帰的呼び出しに出会うだろう。この再帰的定義の利点は、複文などのように、似たような構造が入れ子状に出現するような現象を簡潔に記述できることだ。コンピュータグラフィックスで樹木を描くような場合にも利用されている。チョムスキーの生成文法ではそのため、簡潔なルールでどれだけでも複雑な構造の文の構文解析ができる。 チョムスキーが、生成文法で成し遂げようとしたことは次のようなものではないだろうか。 一つ目は、上に述べたように生成文法によって、すべての文法的に正しい英文を生成することだが、それを統辞論的に行うことだ。つまり、文の意味とは独立に、文の文字の配列のみから文の構造を明らかにすることである。 二つ目は、文の構造と意味とは別の問題だとしても、本質的に重要なのは、文を生成する能力である。したがって、文法脳とでもいうべき脳の装置があって、そこで、言語を操作する仕事を一手に引き受けている可能性があるということである。(実際、脳の機能イメージングでは被検者に文法について考えなければならないような課題を与えると、ブローカ領域の活動が盛んになるそうだ。) もしかしたら、彼は記号論理学の形式的体系をモデルにしたのではないだろうか。記号論理学の形式的方法も統辞論的な操作であらゆる論理学的に正しい命題を作成しようとした試みである。 彼の仕事に影響をうけて、情報処理の分野では、文脈自由文法がコンピュータで処理可能なあらゆる作業を記述できることを証明している。数多くのコンピュータ言語があるが、ほとんどは文脈自由法を用いて構文解析をしているのだ。彼の意図とは別に、コンピュータにとっては生成文法は不可欠のものになっている。 生成文法は英語の文法の解析を通じて発想されたものだ、したがって語順の重要性が強調されている。しかし、言語の中には、ラテン語のように語順にはっきりした決まりのないものもあり、すべてが、生成文法の様式をとっているかどうかは明らかではない。 しかし、生成文法が出現することで、はじめて、言語のようなものでもその背後に数理的な構造が存在し、言語活動を成立させているのだということを意識することができるようになったのだ。
by tnomura9
| 2006-03-04 07:25
| 考えるということ
|
Comments(0)
|
カテゴリ
新型コロナウイルス 主インデックス Haskell 記事リスト 圏論記事リスト 考えるということのリスト 考えるということ ラッセルのパラドックス Haskell Prelude Ocaml ボーカロイド 圏論 jQuery デモ HTML Python ツールボックス XAMPP Ruby ubuntu WordPress 脳の話 話のネタ リンク 幸福論 キリスト教 心の話 メモ 電子カルテ Dojo JavaScript C# NetWalker ed と sed HTML Raspberry Pi C 言語 命題論理 以前の記事
最新のトラックバック
最新のコメント
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||