記号論は言葉の二つの面を区別する。記号の物理的実態としての記号表現とそれが指し示す記号内容だ。
ソシュールの場合は、記号表現が単なる記号内容のラベルではなく、記号表現と記号内容の相互作用や記号間の関係によって、記号の意味の世界が構築されることに焦点を当てている。しかし、モリスは記号表現そのものの構造に注目しそれを統辞論として、記号表現と記号内容の関係を分析する意味論から分離した。 コンピュータの出現で、統辞論はさらに重要性を増している。人間の言葉をコンピュータの言葉に翻訳するコンパイラーやインタープリターの設計に利用されるようになったからだ。同時に、コンパイラーの構文解析プログラム(パーサー)の仕組みを知ることによって、人間がどうやって言葉を意味に変換しているかを逆に類推することができる。難解なチョムスキーの生成文法も、プログラム言語という人工言語に適用され、構文解析プログラムに実装されることで、その性質や効果や限界が分かりやすくなっている。 マイコンが出現した当時、管理人がこれに熱中したのは、それが今までの機械と違ってプログラムを実行することができたからだ。プログラムを学習することで、人間はどのように思考するのかという疑問に光を与えるのではないかと思ったのだ。 プログラマーが作成したプログラムをコンピュータが実行する過程を考えてみよう。作成されたプログラムは単なるアルファベットや記号の列でそれ自体には作業を実行する機能はない。また、個々の文字はアルファベットと記号を含んでもたいした数の種類はない。しかし、その組み合わせは文字列の増加に対し幾何級数的に増大する。したがって、ほぼ無限の作業に対応することができるのだ。 このプログラムがコンパイラに渡されると、まず語句解析プログラムが働いて、一本の記号列から変数名や関数名、命令名、演算子などの意味のあるまとまりをトークンとしてとりだし、トークンの列を作成する。トークンの列はさらに構文解析プログラムに渡され、文法のチェックと複数のトークンから構成される文の意味付けがされて、機械語のプログラムに変換される。この文法のチェックに生成文法が活躍しているのだ。 コンピュータのプログラミングに興味のない人にとっては何だという話かもしれないが、記号の処理という点で一般的な言語情報の処理と共通する部分が多いのだ。 たとえば英語の聞き取りについて考えてみよう。最初はただダラダラと流れていく音の流れにしか感じなかったものが、上達してくるとそのなかから意味のある音の塊、たとえば I've got to のようなトークンを切り出してくることができる。したがって、英語の聞き取りを学習する時点で、最初は意味を理解しようとせず音の塊を聞き分けようとすると良いのではないかなどというアイディアが湧いてくる。つまり、構文解析の前の語句解析の能力を上げようと考えるのだ。ただし、英文の聞き取りの場合はトークンとして単語単独ではなく周辺の品詞も含めた慣用句のような音の塊を意識したほうが良いかもしれない。 文書情報を理解するためにコンピュータプログラミングの過程をモデルにする方法はいろいろありそうだが、文章が長くなりすぎたのでこの辺でやめておこう。
by tnomura9
| 2006-03-03 06:01
| 考えるということ
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