素朴集合論と図書館のパラドックス

素朴集合論でラッセルのパラドックスが起きるのを不思議に感じるのは、素朴集合論の視覚的なイメージがないからだ。しかし、素朴集合論はよく知られた図書館のパラドックスによってうまくイメージ化することができる。

図書館のパラドックスとはラッセルによって発見されたパラドックスだ。図書館の本には自分自身に言及したものとそうでないものがある。ところが、自分自身に言及しない本の目録を作るとその目録自体は目録の内容に含まれるとも含まれないとも言えないというものだ。

もし目録に自分自身が言及されているとその目録は自分自身に言及しているので、目録には記載できないはずだ。また、目録に自分自身が言及されていない場合、目録の性質から目録は自分自身に記載されなくてはならないことになりこれも矛盾する。

この図書館のパラドックスを少し変えると、素朴集合論の端的なイメージモデルになる。そのために少し工夫をする。この図書館の本は全て目録でできているとするのだ。この場合、図書館の1冊の本は1つの集合を表す。1冊の本は集合を表し、その本の中の目録はその集合の外延を表している。これは集合を要素とする有限集合についての、素朴集合論のイメージモデルとなる。

このイメージモデルからいろいろな素朴集合の性質を調べる事ができる。まず集合を一つの「もの」と考えて他の集合の要素とすることができるということだ。つまり、1冊の本は「もの」であり、他の集合の目録に記載できる。すなわち、集合は他の集合の要素となる事ができる。これは「集合とはものの集まりという『もの』である」という素朴集合論の集合の定義をイメージ化したものになる。

この図書館の本には、自分自身の内容に自分自身を登録できる。素朴集合論の集合の定義からは、「自分自身を要素として含む集合」を考えることができる。したがって、図書館の本の中には「自分自身を要素として含む集合」と「自分自身を要素として含まない集合」が存在することが分かる。

しかしながら「自分自身を要素として含まない集合の集合」という本は図書館のパラドックスからこの図書館の蔵書としては作ることができない。図書館の本には明らかに「自分自身を要素として含まない集合」である本のグループがあるのに、それを集めた目録ができないのは不思議に感じるが、しかし、それは図書館の蔵書のなかで完結させようとしたために起こる不都合で、図書館の外にそのような目録を作ることは可能だ。

実は、図書館の蔵書の数を N とすると、図書館の本の集まり(集合)の種類は 2^N となり、到底図書館の本の可能な集合全てを図書館の本として作成するのは不可能なのだ。図書館の蔵書には図書館の本を要素とする集合のごく一部しか目録として作成できない。

しかし、図書館の蔵書の可能な集合の目録を別の図書館につくればそのような制限はない。ただし、その目録は図書館の蔵書ではないためその目録を要素とする集合は作ることができなくなる。

このように、ものの集まりを「もの」として扱うという素朴集合論のアイディアは必然的に自己言及性を免れない。ラッセルのパラドックスはこの自己言及性が集合の定義に使われたためにおきる矛盾なのだ。

たしかに 2^N ある図書館の蔵書の集合を N 冊の本で表現はできないだろうが、組み合わせ次第では「自分自身を要素として含まない集合の集合」を作れるのではないか。なぜそれができないのだろうか。それは、自分自身を要素として含まない集合の集合は、図書館の蔵書の内容によって変化してしまうからだ。

2^N の集合のうち N 個を選んで図書館の蔵書としたとする。そのときには明らかに「自分を要素として含まない集合」の集合はあるが、しかし、その内容は N 個の蔵書の選び方によって変化してしまう。「自分自身を要素として含まない集合の集合」は固定的な集合ではなく、図書館の蔵書として選び出す N 個の蔵書の種類によって常に変化する。つまり集合の定義の自己言及性のため、どの集合を図書館の蔵書として選定しても、そのなかには「自分自身を要素として含まない集合の集合」は作れない仕組みになっている。これがラッセルのパラドックスの正体だ。問題は集合にではなく、集合の定義の仕方にあったのだ。

これらの集合の性質は、図書館の蔵書が有限だから起きるとしても、どのように図書館の蔵書を増やしても成立するので無限の集合の集まりを考えても、ラッセルのパラドックスを解消することはできない。再帰的定義によって無限を捉えるやり方は、その根拠は必ず有限の論議に基づくため、有限集合で論じられる性質は無限集合についても保存される。

素朴集合論は目録を集めた図書館としてイメージ化することができる。また、ラッセルのパラドックスのメカニズムをこのイメージ化によって理解することができる。

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by tnomura9 | 2017-06-28 07:21 | ラッセルのパラドックス | Comments(0)
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