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思考の5つの要素

人間が思考するために使っている能力には比較的独立した5つの要素があるのではないだろうか。それはデータベース、パターン認識、論理、シミュレーション、直感の5つだ。

記憶とせずにデータベースとしたのは、記憶力を左右するのは繰り返しによって記憶を定着することよりも想起する力をつける方が記憶力をつけるからだ。人間の記憶は連想で出来ているようなので、連想する力をつけることが記憶の管理には重要になってくる。

パターン認識は現在見ているものと同じようなパターンを記憶の中から取り出す能力だ。ノイマン型のコンピュータにパターン認識をさせるのは大変だが、脳型のコンピュータをつくるとたやすくプログラムできるらしい。パターンとは何かという数理的なモデルができれば、コンピュータのパターン認識能力も飛躍的に伸びるに違いない。

論理は、こうなればこうなるという推論だが、本質的には起こりえるあらゆる可能性を列挙することだ。論理には演繹 deduction、帰納 induction、推理 abduction の3種類がある。演繹は公理や定理から論理的に導き出される結論について論証する。帰納は経験や実験結果をもとに、その中に内在する法則を導き出す。推理は限られた証拠の中から、最もありえる仮説を考えだすことだ。

シミュレーションは非言語的な論理だ。頭のなかに操作可能なモデルを作成する能力だ。コップの水がこぼれた時の様子を思い浮かべることができるだろうか。それは、過去の経験を思い出しているばかりではなく、その経験をもとに水の動きをシミュレーションしているのだ。脳の中のシミュレーションが高度なものであるのは、自分が入浴しているところを想像してみればよい。水面の波紋や、シャワーの水滴の軌跡など高度のシミュレーションが行われているのが分かる。この頭のなかで作成したモデルを操作する能力は、数学を理解するための必須の能力だ。この能力は代数を学ぶより幾何学を学んだほうが鍛えられるような気がする。

直感は事実の中に意味を見つけ出す能力だ。卑近なところでは「これは何の役に立つのか」とか「これは何に利用できるのか」というような考え方だ。あるいは、「要するに」という問題点を要約する力とも言えるだろう。

これらの能力がどう働くかは将棋を指すときのことを考えてみれば分かる。記憶は、過去の棋譜や詰将棋の解答の記憶だ。パターン認識はそれらの記憶から現在の戦局に似ているものを思い出す。論理はそれらを元に自分の次の一手のあとにどのような展開が起きるかを網羅的に考える。シミュレーションは熟練した指し手であれば、その後の起こりえる戦局の変化が盤面のイメージとして浮かんでくる。直感はそれらの考えられる指し手のうち最も重要なものを選び出す。

将棋はこのように思考の5つの要素をバランスよく使うので、思考のモデルとなるが、将棋の思考は将棋に特化しているため将棋が強ければ全ての思考活動で応用可能だというわけにはいかない。しかし、ある時期将棋の訓練をするのは思考力を鍛える上で大切かもしれないという感じはする。

これらの5つの要素が独立しているのは、単なる物知りや、おやじギャグや、理屈っぽい人や、手先の器用な人や、妙に穿った意見を言う上司などが存在することからも分かる。自分が差し当たり抱えている問題についてこの5つの要素のどれを補強しなければならないのかを意識的に反省してみることも重要である。
by tnomura9 | 2014-09-24 04:55 | 考えるということ | Comments(0)
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