マックレーンの『圏論の基礎』には、部分圏の定義を次のように書いてある (p.18)。
圏 C の部分圏 (subcategory) S とは、C のいくつかの対象と、いくつかの射の集まりで、各射 f について対象 dom f と cod f の両方を含み、各対象 s について恒等射 1s を含み、合成可能な射の各対 s -> s' -> s'' についてその合成を含むものである。これらの条件は対象と射のこれらの集まりそのものが圏 S を構成することを保証する。 「いくつかの対象と、いくつかの射のあつまり」以外の部分は圏の定義と同じだから部分圏という限りは当然だ。問題はこの「いくつかの対象と、いくつかの射のあつまり」という部分だ。 構造的に閉じた部分集合というと、部分群を思い浮かべる。部分群は本質的には部分集合だ。もとの群の二項演算について閉じているが、本質的には集合の要素の部分的なあつまりだ。 部分圏の場合は、視野を対象と射の両方に広げなくてはならない。ここが一番いいたかったことだが、対象の数が元の圏と同じでも、射の数が少なければそれは部分圏になるということだ。部分群の場合は、少ないのは要素の数だったが、部分圏の場合は対象と射の両方が減っている。あるいはどちらかが同じでどちらかだけが減っている場合もある。 部分群のアナロジーで部分圏をとらえようとすると、参考書の記述と自分のイメージとが合致しないことが出てくるので注意が必要だ。 数学の記述は、適切な視覚的イメージを作ることができれば、理解できることが多い。理解できないと考えるときには自分のイメージにどこか問題があるのではないかと検討しててみることも必要だ。
by tnomura9
| 2014-08-29 16:58
| 圏論
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Comments(9)
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通りすがり
at 2014-08-31 10:03
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> 圏 C の部分圏 (subcategory) S とは...
「Obj(S)⊆Obj(C)かつArrow(S))⊆Arrow(C) であるような圏のこと」 というだけではだめですか?
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tnomura9 at 2014-08-31 10:31
通りすがりさん、コメントありがとうございました。
グラフ S が合成射の結合性 associativity と単位元律 unit law を満たしていれば大丈夫だと思います。
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通りすがり
at 2014-08-31 15:57
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tnomura9 at 2014-08-31 18:32
通りすがりさん、コメントありがとうございました。
Sの対象はCの対象なので恒等関数は既に定義済みでしたね。Arrow(S)⊆Arrow(C) では恒等射が抜ける場合もあるのではと考えたので、グラフ S としました。細かい議論は大切なのですが、どうも苦手です。全ての対象が恒等射を持っていれば、結合則は何時でも成り立つのでしょうか。よくわかりません。しっかりしたイメージを作るためには細部に注意することや、もっと簡潔な表現ができないかと考えることも大切ですね。コメントではSが圏であるといわれているので、恒等射云々の考察は必要なかったかもしれません。
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tnomura9 at 2014-08-31 19:20
追記です。
数学の記述を理解するためには、直感的にその記述で述べられている概念をつかむ部分と、細部に至るまで網羅的に可能性を検討するという部分と両方必要ですよね。どちらも結構エネルギーを使うし、漏れや方向性の違いを自分で発見するのも大変です。こういう議論をしていただくのはそういう意味で有り難いです。また、教科書にかかれている内容は過去に幾多の人たちのそういう議論の集成が書かれているわけで貴重だと思います。圏論とは一体何なのだろうかという興味でブログの記事を書いてみたのですが、そういう歴史的な重みのようなものを感じてちょっと一休みしてみようと思いました。もちろん、このブログに書いたような記事が、素人はこう考えやすいという紹介にもなりますし、全く無駄だとは思いませんが、やはり、S/N比を増やしてしまう部分が多々あると思います。セミナーなどに参加できればいいのですが、時間的に難しいです。なんとなく圏論の考え方とはどういうものかというぼんやりしたイメージができたような気がしますので、しばらくゆっくり他のWebの記事を読んだり、本を読んだりして充電したいと思います。
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tnomura9 at 2014-08-31 19:25
追記の追記です。
通りすがりさんには、貴重なコメントをありがとうございました。お陰で随伴関手についてすこし理解が進んだような気がします。きちんと御礼を言っていなかったようなので、ここで御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
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通りすがり
at 2014-08-31 20:27
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> 恒等射が抜ける場合もあるのでは...
> 結合則は何時でも成り立つのでしょうか。 これらはどれも、圏の公理に含まれているので、 「(Sは)圏である」の一言によって成立が保証される のではないでしょうか? > 素人はこう考えやすいという紹介にもなりますし 私が貴兄の記事を大変貴重なものとリスペクトするのは まさにその点です。無駄どころか単なる数学記事を超えて います。(なおここで私は「素人」という言葉も最上の 意味で理解しています) > 御礼 他人行儀に(笑)そんなふうに仰るなら、お言葉はそのまま tnomuraさんにお返ししなければいけません。こちらこそ いつ丁寧にお相手ありがとうございます。 でも万が一、完全にお休みされてしまうということなら 大変寂しいです。
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tnomura9 at 2014-09-01 07:43
通りすがりさん、コメントありがとうございました。
過分な評価のコメント、恐縮です。わたしが、圏論に興味を持ったのは Haskell の IO モナドがよくわからなかったからです。数学的知識がなくてもプログラムはしないといけないので、あれこれ入門書をあさっているうちに、自分と同じような問題を抱えている人もおおいのではないかと思ったのでブログの記事を書きました。しかし、圏論や数学の奥深さが最近わかってきて、しばらくは、インプットに集中しなくてはならないと考えています。また、伝えたい事が育ってきたら、挑戦してみたいと思います。通りすがりさんの、専門家の立場からのコメントはたいへんありがたかったです。こういうコメントをもらえるのもブログのいいところですね。本当にありがとうございました。
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通りすがり
at 2014-09-01 18:37
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