双対 dual

1. 双対 dual とは

圏論では双対が重要な役割を果たしているらしいが、双対とは一体何なのかは常識なのか参考書には詳しくはかかれていない。そこで、論理学の双対がわかりやすそうだったので調べてみた。論理学の双対についての Wikipedia の記述は次のようになる。
論理の双対

命題を論理式として表したとき、論理和 ∨ と論理積 ∧ とをすべて入れ替え、全称記号 ∀ と存在記号 ∃ とをすべて入れ替えたものをもとの論理式の双対といい、入れ替えて得られた命題をもとの命題の双対命題と呼ぶ。双対の双対はきっちり元に戻る。

元の論理式が証明可能ならばその双対の否定が証明可能であり、ある論理式の否定が証明可能ならば、その論理式の双対が証明可能になる。
要するに数学的構造の要素の何かを入れ替えても変わらない性質があるということだ。論理の双対のばあい元の命題が証明可能なら、細かい証明をやらなくても双対命題の否定の証明が保証される。手抜きができるというわけだ。

しかし数学的対象に限っても双対には多様なものがあって、入れ替えるという操作以外には共通点がなさそうに思われる。双対という名前が出てきたら、単に「いれかえちゃえ!」と考えるとよいのかもしれない。この漠然とした双対の高度な抽象性が双対をつかみ所のないものにしているのだろう。

2. 圏の双対 ---- 双対圏 dual category

それでは、圏の双対とはなんだろうか、それはある圏 C の矢印を全部反対にした双対圏 dual category をつくることだ。つまり、圏 C の対象を Ci、対象 Ci から Cj への射を fi j とすると、

fi j : Ci -> Cj

を、

j i : Ci <- Cj

に置き換えてしまう。このことを『圏論による論理学 高階論理とトポス』では次のように文章で定義している。
定義(双対)

S を圏についての何らかの命題とする。このとき、S 内における dom を cod に、cod を dom に変え、また g . f を f . g のように矢の合成順序を変えた命題は、命題 S の「双対」 (dual) と呼ばれ、記号 SOP で表される。

また命題 SOP によって記述されている概念は、対応する命題 S によって記述されている概念の「双対」 (dual) と呼ばれる。

定義(双対圏)

C を圏として、この C から得られる次の条件 (1) ~ (3) をみたす圏は、C の双対圏 (dual category) と呼ばれ、記号 COP で表される。

(1) COP の対象の全体は、C の対象の全体と同じである。
(2) COP の矢の全体は C の矢の全体と同じである。
(3) COP で f : A -> B であることは、C で f : B -> A であることと同等である。

なお上記した二つの定義から直ちに明らかなように、命題SがCで成立することと、SOP が COP で成立することとは同等である。たとえば、Cでの終対象は、COP では始対象である。

3. 集合の圏 Set の双対圏 SetOP

これから書くことは参考書にはなく、管理人の単なる意見なので聞き流してほしいが、こうすれば双対圏のイメージが作りやすいのではないかという提案だ。

集合と写像の集まりを圏にするには少々条件の整備が必要だった、圏 Set の射 f の domain を集合 A、codomain を集合 B とすると次のように表記できる。

f : A -> B

しかし、この場合写像 f が圏の射となるためには、射の合成可能という条件を満たす必要がある。射 f の codomain A と射 g の domain A が一致する場合、

g . f

という合成関数を作ることができるが、これは f とは別の h という関数の codomain が A であれば、やはり、

g . h

という合成関数が作られないといけない。f の像と h の像は一般に異なるから、g に接続されるどのような関数 k についても g . k が合成できないないといけない。したがって、当然 g の定義域は domain A と一致しなくてはならない。つまり、Set の射はどれも全域関数である必要がある。しかし、codomain の方にはそのような制約はなく、f の像は f の codomain の部分集合であれば、全射でなくても一向構わない。

したがって、

f : A -> B

の矢の向きをひっくり返せといわれても、全単射なら逆写像に置き換えられるかもしれないが、どのような射もひっくり返すわけにはいかない。f の domain は A と一致するが、f の像は B の部分集合であるだけなので、f の矢頭だけを付け替えるわけには行かない。

しかし、いい方法がある。

f : A -> B

の写像はそのままにして、SetOP の f に対応する射 g の定義を次のようにするのだ。

dom g = B
cod g = A
g = f

つまり、写像の f はそのままに、domain と codomain を逆転するのだ。そんなことをしたら g B のように g による B の射はどうするのだ、f は全射で B に写像しているわけではないという意見もあろう。しかし、圏論の世界では g は別に写像である必要はないのだ。集合 A から集合 B への写像 f を、domain B から codomain A への射とみなしても構わない。写像という傘を反対に置いたというイメージだ。

それは圏論の立場では、射 g の domain と codomain が定義できればいいだけだからだ。 dom g = B であって、cod g = A であって、さらに、g : B -> A と h : C -> B の合成射 g * h : C -> A が定義できれば g の実体が f であっても別に構わない。

ほんとうにこのような合成射が定義できるのかどうか見てみよう。まず g と h の元となる Set の射 f と k を考える。

f : A -> B
k : B -> C

このとき k . f : A -> C が定義できる。また、このとき圏 SetOP の射 g と h は次のようになる。

g : B -> A
h : C -> B

したがって、g と h の合成は g * h : C -> A となる。これは k . f : A -> C の domain と codomain を入れ替えたものだ。このとき、 g * h と k . f は同じ関数を表している。つまり、

g * h = k . f

だ。合成射 g * h : C -> A は実際は集合 A から集合 C への写像 k . f : A -> C であるが domain は C で、codomain が A である。つまり圏 COP の合成射 g * h は 写像 k . f を逆さにしたような形になっている。これは圏 COP の射の定義に添っていることになる。

このように圏 Set の双対圏 SetOP の射は写像ではなく、写像をひっくり返したものになる。このような定義でも上で述べたように、射は domain と codomain をもち、射の合成を射の定義と整合的に作ることができることがわかる。ただし Set の双対圏 SetOP の射は集合で言う写像にはならないことがわかる。

4. まとめ

双対の概念は分かりづらいが、これを利用すれば証明をしなくてはならない命題の数が半分になる。また、圏論の推論には双対を利用しているものが数多くあるので、双対についてのイメージを持っておくことが大切だ。また、圏論の双対は矢印を反対方向にするだけなので、証明に使われた図式の矢印を全て反対方向にした図式はすべて証明済みと考えることができる。便利なものだ。
[PR]
by tnomura9 | 2014-07-14 21:25 | 圏論 | Comments(0)
<< 圏論では射の中身もみえない。 cone と limit >>