圏論の学習で行き詰まっている。自然変換のイメージがどうしても作れないのだ。随伴のイメージは大体できたと思える。というのは、参考書を読んでいて随伴の記事が出てくると知らない人の中で知り合いと出会ったときのような安心感がわくからだ。
圏論に挑戦してみて気がついたのは、数学が分かりにくいのは論理が込み入っているからではなくて、個々の概念の視覚的なイメージができていないせいだということだ。あるいは、操作的なイメージと言ってもいい。 知恵の輪を解くときには言葉を使って解いたりはしていない。知恵の輪のピースをあっちへ動かしたり、こっちへ移動させたりという操作をしているうちになんとなく解法への道筋のようなものが見えてくる。その操作は非言語的でありイメージ的であり操作的だ。 数学の場合もそうなのだろう。一旦概念のイメージが視覚的にあるいは操作的に出来上がると、それをいじっているうちに理解や解答につながっていく。数学で最も大切な事はそういう操作できる具体的なイメージを持つということのような気がする。 数学ができなかったので論理学を勉強すればできるようになるのではないかと論理学の本を読んだがちっとも点がとれなかったのはそのせいだ。 余談が長くなったが、自然変換のイメージが作れないので、原点に戻ってまず圏のイメージをつくることから始めてみる。 そこで、最も簡単な圏とはどのようなものだろうかと考えてみた。それは、たったひとつのオブジェクト A とたったひとつの射 f = IdA からなる圏だ。こんなものが圏になるのかと思うかもしれないが、これも立派な圏だ。つまり A = dom f で、A = cod f だ。また f と f の合成が定義できて f = f . f だ。また、(f . f) . f = f . (f . f) は合成の結合則を満たしている。さらに恒等射 IdA を持ち、f = f . IdA, f = IdA . f だ。 おどろいたことに、どんな複雑な圏もこの最小の圏と基本的には同じだ。つまり、オブジェクトの中身を覗くことはできないし、関数の中身も覗けない。集合の圏であろうと、位相空間の圏であろうと、このオブジェクトを射という矢印で繋いだもののなかに閉じ込められてしまっている。 自然変換のイメージだって、このオブジェクトと射のネットワークに対して形成されるのであって、個々の集合の要素や、射の内容などは必要ない。自然変換の具体例は、単にこのような圏のオブジェクトと射のネットワークでしかない。集合や位相空間や線形写像などの詳細は、圏の中に全て隠蔽されているからだ。それらの具体例は、それらの圏を作成するときにのみ必要になってくる。 さて、オブジェクトが A 1個であっても A -> A の射は IdA 意外にも色々なものが考えられる。例えば A = {a1, a2, a3} という要素が3個だけの集合であっても g : A -> A にはいろいろなものが考えられる。例えば a1, a2, a3 に g を関数適用した場合の値がいずれも a1 になるという射がある。このような射には値が a1 になるもの意外に a2 になるもの、a3 になるものなど合わせて3種類の射が考えられる。また、a1 -> a1, a2 -> a1, a3 -> a2 のように値が a1, a2 の2つのうちのどれかになる場合がある。a1 が単独の値を持つ場合の3通りに対して a2, a3 が同じ値を持つ可能性が2つあるから 3 × 2通り、これは a2, a3 の値が単独の場合もあるから結局 (3 × 2) × 3 = 18 通りの射が考えられる。最後に a1, a2, a3 がそれぞれ異なる値に対応する場合の 3! = 6 通りがあるから、結局単一のオブジェクト A からそれ自身への射 endomap の数は 3 + 18 + 6 = 27 通りあることになる。 このような場合分けを行わなくても a1 が写像される値は a1, a2, a3 の3通りで、その場合に a2 の撮り得る値が 3 通り、さらに a3 が撮り得る値が 3通りだから結局 3 ^ 3 = 27 通りだと計算する事もできる。また、IdA はこの 27 通りの中に含まれる。 圏というのはこのようにオブジェクトが1個だけでも非常に多数の射を持つ事が多くなる。 オブジェクトが A 1個の場合の圏のイメージができたので、オブジェクトが A と B の2個の場合を考えてみよう。この場合次の4種類の非常に多くの射が考えられる。 IdA : A -> A ....... A の恒等射 IdB : B -> B ........ B の恒等射 hi : A -> A .......... Aの複数の endomap ki : B -> B .......... B の複数の endomap fi : A -> B .......... 複数の A から B への射 gi : B -> A ........ 複数の B から A への射 ここで、A = {a1, a2, a3}, B = {b1, b2, b3, b4} のとき f : A -> B の射の数は a1 の値の取り方が 4 通り、それぞれに対して a2 の値の取り方が 4 通り、... となるから結局 4 ^ 3 = 64 通りとなる。これをみると A -> B の関数の集合である冪対象の表記がなぜ BA となるのかが分かる。 いずれにしても圏とは比較的少数のオブジェクト間に非常に多数の射が張り巡らされたネットワークでイメージする事ができる。 この2個のオブジェクトを持つ圏のイメージが全ての圏のイメージの原子となる。すべての圏はこの2個のオブジェクトからなる圏を組み合わせた圏と考えられるからだ。次回は、この圏の基本的なイメージをもとに自然変換について考えてみたい。
by tnomura9
| 2014-06-24 22:41
| 圏論
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