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中国経済の崩壊は他山の石

Google検索していて石平氏の次の論文を見つけた。

中国高度経済成長の虚構と崩壊の危機(雑誌未掲載論文)

崩壊の危機に向かっている中国経済の機能不全の原因として、生産過剰と、不動産投資バブル、株投資バブル、異常に高い所得格差が挙げられていた。

設備投資の過剰により作りすぎて売れなくなった製品、不動産の値上がりを過信して需要をはるかに超えた建築物の建設、株の値上がりに対する不用意な期待による売買の加熱。異常な所得格差による、国内消費の不振。これらが、中国の経済をいつ破綻してもおかしくない状況に追い込んでいる。

最初は輸出用の商品が飛ぶように売れたところから始まったのだろう。設備投資をすればするほど収益はうなぎのぼりに上がっていく。設備が拡充すれば、雇用が増加し、人口が集中する。すると、それに引っ張られるように土地や建物の経済的価値が増加する。これも、建物を建築すれば瞬く間に入居が埋まり、建物が売れる。その利益をもとに不動産投資が拡大再生産され、投資家の利益が蓄積していく。

このモデルは産業による製品の生産量が、それを引き受ける市場の需要に比べて比較的小さい時はうまくいく。しかし、現代の技術のレベルのために、製品の生産量が需要を追い抜くのにそう時間がかからない。あっというまに製品が市場を飽和させると、カタストロフィックな価格の下落と販売不振がやってくる。

不動産のバブルや、株取引のバブルは市場の思惑に依存しているが、実体経済と全く関係がないわけではない。バブルをささえる実体経済の状況変化はやがて、不動産や株の価格の下落となって現れてくる。しかし、不動産や株の値段は実体経済が悪くなっても少し先まで持ちこたえ続ける。価格の設定に人間の思惑が絡むからだ。しかし、そのために破綻するときは極端なカタストロフィとなって現れる危険性が高い。土地の値段や株価が下がるときの値段にも、人間の思惑が関与してくるからだ。

日本の場合も最初の好景気は輸出でもたらされた。しかし、その間に給与所得も上がってきたために、輸出が振るわなくなっても国内の市場に製品の需要を見出すことができたため、バルブ崩壊の影響を和らげることができた。不況にはなったが全く売れなくなったわけではなかったのだ。

しかし、中国は異常な所得格差のため、輸出が減少した時の、ショックアブソーバーを国内に求めることができない。したがって、バブル崩壊の影響も破滅的に現れる可能性がある。

しかしながら、いずれの場合も根本に生産力の過剰があることは間違い無いだろう。製品が市場を飽和させるまでの期間が短すぎるのだ。そのため、国際間の競争も勝ち組負け組の差がはっきりと出やすくなって、企業のストレスが高まり、何が問題であるのかが見通せなくなる。つまり、価格競争の消耗戦に入ってしまうのだ。

そうすると、アップルの台頭とソニーの凋落の原因が分かる。アップルは iPhone という今まで市場に全く見られなかった製品のお陰で巨額の利益を得、ソニーはプレイステーションという画期的な製品が市場を飽和させてしまったために凋落したのだ。

異常に高まった生産力の向上のせいで、21世紀の企業は常にそれまで市場に全くなかった製品を開発し続けなければ生き残っていく事はできないだろう。そうして、売れる商品を掴んだらできるだけ速く大量の商品を市場に供給する生産力のスケーラビリティを備えていなければならない。

また、国としてはそれまでに存在すらしていなかった商品の開発に助力すると共に、国内の所得格差に対して税による所得の再配分に留意することで、市場が飽和した時のショックを和らげる必要がある。どんなに飛ぶように売れている製品も遠からず市場を飽和させるので、不況は必ず来るからだ。

また、過度な再配分は、資金の集中を阻害し、商品開発の意欲を失わせるだろうし、反対に、過度な所得格差は、国を揺るがすほどの破綻を来させる可能性がある。舵取りが肝要だ。

中国が今の経済構造を買えない限り経済崩壊は避けられないだろうが、日本も例外ではない。他山の石として中国の経済の動向を研究する必要がある。時代の変化によって不況の原因が変わってきている時に、あいも変わらずニューディール政策を振りかざして、通貨の供給を通じてインフラや設備投資を奨励しても効果はないどころか、却って、事態を悪くする可能性があるからだ。

新しい時代の不況は、製品開発力と営業能力の増強と、素早く市場に製品を送るための生産力のスケーラビリティーを確保すること。GDPの再配分によって国内消費力を低下させないようにすることで乗り切る必要がある。

日本の場合は研究開発の意味や売れる商品を見抜くための専門機関の充実と、製品を海外に営業するために外国へ派遣されてもいいと思う若者を育てること、ロボット技術による工業生産のソフトウェア化、つまり、同じ機械で多様な商品を製造できる技術と、台湾に見られるような受注生産専門の工場建設を促進すること、金融所得への課税やベーシックインカムのような効率的な福祉による所得の再配分などで対応しなければならないのではないだろうか。

日銀とばらまきの財政出動へのおんぶに抱っこでは切り抜けられない時代になっているのだ。
by tnomura9 | 2012-11-26 02:20 | 話のネタ | Comments(0)
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